響く、鐘。謡う、声。

 祝福は笑顔で。誰もが笑顔で。

 そう変えられるのなら、何と光栄なことだろう。

 神のように救えはしなくとも。

 人の力で全ては、変わる。

 

 遠い異界に。きっと届く。この聲。

 

―――――――――――――――――――――

L'Imperator” ---Score

Jun. 10, Neo.Globe.0320

Lutetia Parisiorum Cathedrale Olympeion

 

 過熱。刻一刻と熱を生み出すシリウスの酷暑。それに合わせるように、シリウス星都ユドン市の攻防戦は最高潮に達した。太陽系軍も含め、ほぼ三十万の兵を投入したにも関わらず、いたずらに被害を増やすだけで戦果は得られなかった。特にアンリ・ベルティエ指揮の第十五師団第四普通科連隊は死傷率が400パーセントを超えている。一人当たり四回も死ぬという笑ってしまいそうな数字だ。

 生き残っているのはベルティエ、トラヴィスという軍曹。そして、ズィーベンだった。最前線の情報を逐一、ズィーベンは送ってくる。今はノインをバルカ少将の第三軍団に置き、連絡を繋げていた。アハトはまだ、手元に置いたままだ。

 六月に入って、オフェリアは一度、帰還した。様々な理由があったが、目的は果たされたと思ってよかった。激戦になり、膠着。互いに停戦を模索し始めている頃でもある。政治的な介入を始めるには、一度ルテティアに戻る必要があった。

 ここからは、戦士ではなく、政治家として。

「さて、報告を聞こう。フュンフ、入れ」

 もう一人、戦場以外で働かせていた男がいる。このフュンフで、総勢だ。フィアもゼクスも、フルジア側についていて買うことは出来なかった。

 ルテティアの宮殿で、フュンフと会う。無論、隣にはアハトが控えていた。

「説得は失敗です、アインス。強硬手段も考えましたが、ミシェル・アルエの妨害に遭いました」

「ひでぇ話だ。聞きたくもなかったな」

 フュンフは、一人だった。戦闘はあまり得意ではなく、工作や潜入に長けた男だ。単純な情報操作だけならアハトやノインにも任せられるが、今回は機転も必要とされていたのでフュンフを送った。だがそう簡単にはいかなかった、ということらしい。

「それで……アリア・ローゼンミュラーはどこにいる?」

 歌姫、強奪。

 模索している道の一つに、それがあった。

 

 今回の反攻作戦には、様々な理由があった。

 まず、開戦時の戦闘以来、一度も派兵しておらず、交戦していないリューヴ政府軍を前線に引きずり出し、戦わせること。これで結果を得られれば、太陽系では駄目だがリューヴなら、という世論が完成される。

 次に、両軍の戦力を分析し、現実的な結果を導くこと。今までフルジアは、局地戦にて勝利を積み重ねて優位に立った。戦線を一つに絞り、総力で戦うことが必要であり、シリウスにおける攻防で負けなければいいと思った。勝利でなくとも、フルジアが撤退すればそこは旧アンドロメダの領域で、奪回したと同意だ。

 最後に、シリウスを凍結させること。緩衝地帯とし、前線にしない。局地戦はせず、全体で戦う。戦線は常に一つ。シリウスが凍れば、後は太陽系のトリトンしか前線は無くなる。勝てずとも、負けない。そういった構図を作る。

 現在、激戦を展開しながら戦線はユドン市に釘付けとなり、膠着した。数日おきに制圧し、されるの繰る返し。終わりを作ること。そのためには、交渉である。そして後押しする世論がいる。

「それで歌姫を使おう、ということか。世論を動かすに彼女以上の適任はない」

 フュンフの後ろから、男が入ってくる。部屋中の注視を受けながら、彼は平然とした表情で椅子に座った。あらかじめ、呼んでいたのだ。この男は今後、必要になってくる。シリウス一帯を緩衝地帯にする方策に必要なのだ。

「フュンフ、オマエは以後、この男――――ツヴァイの下につけ」

 クンストヴェルク、第二位。ツヴァイは軽く頷き、フュンフを見ていた。やがて視線を外し、歌姫の一件について語り始める。

 アリアに反戦の歌でもうたわせる。プロパガンダとして、これ以上の素材は無い。簡単でいい。ただ単純に、「戦争反対」とでも思わせるだけでいい。世論などとは、そんなものだ。小さな声が集まって、大きくなる。純粋であればあるほど、明確に意思は伝わる。

「彼女は今、ウルサにいる」

「ウルサ星系?はァん、辺境だな。あの一帯は独立勢力に近い。中央から遠く、好き勝手やっている連中だ」

 位置的には、マゼランに入るのか。フルジアからリューヴを狙う道は、三つある。レグルス、ネアポリス、アカデルスと抜く中央路。太陽系、ティールと抜く道。そしてスターバースト宙域を抜けて一気にアカデルスまで出る道。ただスターバーストは、航路にするには危険が多すぎた。治安も悪い。

 ウルサ星系はこのスターバーストの付近にある。人も寄り付かない僻地だ。そのため、フルジア軍の攻撃を受けることなく、またアンドロメダに恭順することもせず、自由に生活を営んでいた。近くにあるミザール星だけは、交易路としてフルジアも利用しているようだが。

「まぁ、いい。ツヴァイ、別件で動け。余はアハトと共にアリア強奪の術を練ろう」

「どうぞお好きに。行こうか、フュンフ。随分と久し振りな気もする」

 ツヴァイの背を見送り、気を張っていたアハトの肩を叩く。

 それも、そうか。ツヴァイ――――オペラ・レーヴェと共闘する日が来るとは、思えなかった。

 

 それもまた、時の流れだろう。

 利害が一致する限り、この嫌悪感も押し殺せる。

 今だけは。

―――――――――――――――――――――

 

 

 砂の星だった。見渡す限りの、砂漠。巻き起こる砂塵に守られて、この星は自分の足で立っている。

 一日限りの滞在は、嫌でも懐かしく、また慌しいものになるだろう。オアシスで捕まえた野生の動物に乗り、土地勘だけを頼りに帰郷を望む。

 昼でも見える星の位置。星間爆発を空に、目的の地を見定める。お客人の体調もそろそろ限界のようだ。急ごう、と思ったところで視界が晴れた。どうやら、土地勘は鈍っていたようだ。目指す故郷は、すでに眼前に。

「……アリアさん、見えましたよ。ようこそ、熊羆の城へ」

 砂塵を弾く、堅牢な城塞が見える。ウルサ星系フェクダ星、最大の都市。リクンモシリ。風化してもなお、敵を受け付けない強さを感じさせる城。動物ユクの首を撫で、唯一の門へ乗り付ける。後ろに続くアリアは疲れきっているのか、返事も反応も無かった。

「レイヴェンスウッドの次男、レイモンド。客人を一人、伴って帰郷します。開門を」

「やぁ、王弟アキ様。里帰りなされて、アチャ様もお喜ばれます」

「ありがとう。アチャの墓にも寄っていくよ」

 弓矢を持って衛兵を務めていた初老の男に礼を返し、開かれた門をくぐる。これは、一応の備えだ。敵など無く、平和しか無いこの国でも。平和に酔いしれてはいけないと兄は思っている。まして世界は戦時で、フェクダだけが平和であるはずが、無い。

 アリアを降ろしてあげ、兄のいる塔まで歩く。高い城壁のおかげで、砂はあまり入ってこない。この砂漠から人々を守るのが、城の役目なのだ。何も変わらない風景を横目に、自宅を目指して活気ある街並みを歩く。

 アキ様、と何度か呼び止められ、振り返った。いずれも見た顔だ。近所の人や、ゆかりのある人、この国に、きっと知らない人などいないくらいに。庭のようなものだ。だからこそ、ここは落ち着き、癒される。安心できる。それが、故郷だろう。

「いいところですね。みな、貴方を知って、喜んでくれていますよ」

「ああ、自慢なんだ。ここがオレの、故郷さ」

 そして、行き着く先。王族が住む政庁、塔の前。家族が待っていてくれた。

 

 辺境の田舎の王様の弟。そんな肩書きは、都会では全く役に立たなかった。そもそも、知らない人ばかりだった。そんな中へ留学へ出れば、自然と変わる。傲慢だった権威を盾にした人格も、二年で一般人に戻る。

 夜、兄と二人で酒を交わした。あまり多くは語らなかった。厳格な性格な兄はますます、堅物と呼ぶに相応しく成長している。ただいま、とも。おかえり、とも。何も言わずとも、通じるものはきっとあったのだが。

「客、のことだけどな」

「うん?アリア・ローゼンミュラーのことかい、兄ちゃん」

「いいのか、こんな僻地で。満足なホテルさえ用意できないぞ」

 アリア・ローゼンミュラーと知り合ったのは、偶然だった。留学先の惑星で、人の気配さえしない路地で兵士に囲まれて困っていた。だから、助けた。そして、逃げた。その二つだ。兵士は貧弱で、打ち倒すのは簡単だった。

 無論、いくら田舎モノだとはいえ、アリアの名前も声も知っていた。逃走、という意思を伝えられたから、連れてきた。動機は純粋に、それだけだった。ちょうど、父の二回忌があったため、帰省の予定があったのだ。

「いいんじゃないか。何となく、ね」

 きっと彼女は、そんなことを気にかけない。この星、我々自身で歓待して喜んでもらえばいいのだ。

 会話が途切れたところで、酒の瓶を持った女性が入室した。二年前、父の死で王位を継承した兄の妻、王妃となった人物。義姉のルーシャだ。二年、会わないうちにまた美人になった気がした。レイモンドより二つ上、ちょうど二十歳になった頃か。

「アキ、明日帰るのでしょう?今宵は酔いつぶれてもらわなくちゃ」

「これは手厳しいね。姉ちゃんユポは酒豪だからなぁ」

「そいつは困るぞ。大事な話をしなきゃならないんだ」

 言いつつも、空いた器に注がれる赤い酒。それを一口に飲み干し、姉へと返杯した。ルーシャも同様に、一気に煽って器を空けた。すでに兄の顔は酒のように赤くなっている。

「げほ、参ったね。こりゃホントに、回ってきた」

「言うな。みな、寂しいのさレイモンド。潰して帰れなくしてやろうという算段ってことだ」

 悔し紛れに兄の器へ注ぐ。優しい気持は痛いほど、感じている。ならせめて一晩くらい、と思い定めて再び杯を傾けた。ルーシャの笑顔が、やけに生々しいものに見えてくる。

 ふと胸に去来しそうになった感情を流すためか、レイモンドは土産話を始めた。それは兄たちも知りたがっていた、この星とは程遠い、異界で繰り広げられる「世界情勢」というものだ。

「一年前に始まったシリウス星での戦闘は、もうそりゃ、とんでもないことになっててね」

 少し前、夏の季節。酷暑は地獄をそこに作った。

 

 ユドン市南部要塞を見上げる。星歴319年の暮れ。そういえば、あの不思議な旅からもう一年経ったかと、カントは感慨を得た。

「こっちにいたか、リエンツィ軍曹」

 背後から呼ばれ、声だけで相手を判断する。城塞を見上げる位置の司令部。その長、リューヴ第三軍司令官のルキウス・バルカ少将は親しげな声で背後に立っている。

「難しい話は全部、シュトラスブルクに言えと伝えていなかったかな」

「おう。だから難しい話は無い」

 タイタン軍、およそ1500。白兵戦闘のプロフェッショナルだったが、現状ではあまり、使いどころが無かった。ユドン市の制圧戦となれば、自然と近接戦闘は増える。働くとすればそこだ。それまで、戦力は温存しておこう、というのが第一だった。

「フルジア軍の塹壕はもうかなり潰してある。年明けには、攻囲戦を始められるだろう」

「難しい話は無しだって、アンタ言ったろ」

「おお、すまん。つい戦の話をしてしまうのだ」

 悪い男ではなかった。エリートではあるが、常に前線に立った叩き上げの軍人で、ツェルニーよりは随分とマシだった。戦好きの戦争オヤジ、というのが内外の評価で、それは間違っていない。政治には一切、興味が無いのだろう。

 タイタン軍は上陸後すぐ、第三軍の援護に出た。十五師団の第四普通科連隊の救援である。ベルティエ、という指揮官が凄まじい顔をして撤退をしていたことを覚えている。第二軍のツェルニーを頼れば、SSUがどうの、ライル理事の顔色がと話し、たまらなくなる。

「いくつになった、軍曹?」

「二十三、の割には歳食ってるけどな。見たくねぇモノもたくさん、見てしまった」

「老けるにはまだ早いだろうよ。戦場ここにずっといれば老けんよ」

 六十歳近いバルカは豪快に笑い、手にした水筒を傾けた。まるで前線の雑兵のような装備だが、いつでも戦えるよう、またいつでも戦いたい気持の表れか。確かに、その気持はカントなどより随分と若々しく、潔かった。

「しかし、ティンクベルンとは大した大将だなぁ。五倍以上の敵を前に、防衛戦を破られないとは驚きだ。ゼヒ一献、会った時にはと考えておるが」

「ヒゲを褒めてやると喜ぶらしいぜ」

「ふむ、なら生やしていこうかね」

 思わず、顎に手が伸びる。金色の無精髭。手入れする暇が無い。

 それはカントだけではなかった。第三軍の本営に入ってから、他の兵士たちと一緒の生活を送っている。食糧などの援助を受ける傭兵のようなものだ。トリスタンもタンホイザーも慣れているため、特に不満は聞こえなかった。

 アデレードがもしいたら、不平不満ですでに戦争状態だろう。イザークと二人で消えてしまって以来、連絡さえとれていない。心配は心配だが、意外とあの二人、気が合っている部分があるので大丈夫だろうと楽観することにした。

「さ……少し肌寒くなってきたな」

 戻る素振りを見せ、カントは背を向けた。タイタン・キャンプの方へ足を向けると、笑いながら別れを告げる少将がいた。

 

 南部要塞の攻略が完了したのは、年明けの一月。フルジア軍が撤退してユドン市に拠ったと報告を受け、カントは自分の白騎士団「カヴァレリア・ルスティカーナ」をまとめた。数は五百。タンホイザーの黒騎士団、八百。さらにトリスタンの義勇兵二百、こちらは本隊で、両騎士団の司令部でもある。

 三人で集まり、軍議とする。バルカからは自由に動いていいと指示を受けていた。フルジアがユドンに拠るなら拠るでいい。周辺を掃討して孤立させ、攻囲する。兵力で勝るその優位性を存分に活かさなければ、フルジアには勝てない。

「敵の総数がほぼ固まった。四万強、というので決まりだ。攻囲戦だな」

 トリスタンの情報は確からしい。他に、シリウス宙域を制圧しているヴァルトラウトの艦隊があるが、数には入れていなかった。これはヴェルブングの陸戦部隊の数なのだ。ユドンに篭り、市街戦となることは明白だった。リューヴ軍はすでに三十万に達している。

「第二軍は南東より、第三軍は要塞を越えて南正面より進軍するようだ」

「トリスタン、十五師団の外人部隊はどうなったんだ?」

「混成と損耗を繰り返しながら最前線に居続けている。歴戦、とは彼らだな。攻囲戦では南、やや南西寄りに進む」

「その後詰に入ろうと思ったが、タンホイザーは?」

「まぁ、無難な線だと思うぜ、酒姫サーキー。最悪、俺たちとヤツらが手ぇ組めばいい」

 ヴェーヌスブルクも同じ意見のようだ。線の細い、タイタノイドにしては珍しく端整な顔、口元だけで笑う。挑戦的な笑みは、昔からこの男の特徴だ。カントはトリスタンと共に、ヴェーヌスブルクの黒騎士団と合同調練を行った過去がある。

「では決まりだな。明朝、ユドン市へ向け出撃しよう」

「うし、じゃあ切り札でも配るか」

 カントは立ち上がり、用意してあった装具を二人に渡す。

「コイツを中に着込め。フルジアの最新式防具だ。まだ配備さえされていない貴重品だぜ?」

 三式アーマースーツは全身装具。今のフルジア軍制式装備は二式で、シャツ・ジャケット・パンツと分離されている。また耐熱性も無かった。他に小型の実弾銃「ヴィラス」を渡す。30センチほどの銃身と、弾倉のこめられたグリップ。手を保護するハンドガードは手首側にもあり、そちらに予備の弾倉がある。およそ20発の大口径銃弾を装填できるようだ。

 これに対するのが、長大で一発ずつしか発射できず、暴発が多く湿気に弱いマスケット銃だというのは笑い話でしかない。

「ようサーキー、やるじゃないか。こんなバケモノ銃を持ってるとはな」

「あまり多用するなよ。弾はそれしかねぇし、スパイ呼ばわりされるかもな?」

 弾丸一つとっても、技術力が違いすぎた。しっかりと板金で固められた銃弾。水に濡れても硝煙は生きている。破壊力も貫通力も、飛距離も違った。決して銃だけが優れているわけではないのだ。アンドロメダの銃弾を利用することなど出来るはずがなかった。

 準備は、整った。ここから、我々の時間が始まる。

 

 市街戦に必要なもの。兵力と、細心の注意。正規戦とは正反対の戦術になる。

 ユドン市南西部、ベルティエ隊はやはり、他の方角より進んでいる。否、他の部隊が遅れているのだ。ビルの谷間から、マンホールの下から、あらゆる場所が遮蔽物で、潜んでいる可能性がある。迂闊に進めば簡単に包囲され、全滅である。

 慎重に慎重を重ね、ベルティエは進んでいる。街のどこにいても、包囲されているという図式は変わらない。その考えに基づき、ベルティエは部隊を小さくまとめ、建物の一つ一つを潰しながらゆっくり進んでいる。散発的な攻撃は時折起こるも、劣勢には立たなかった。

 そして、ベルティエ隊を上手くやり過ごしたとしても、後詰のリエンツィ隊、ヴェーヌスブルク隊が続いている。分断されることは絶対にない。さすがに、ベルティエもリエンツィも市街戦という特殊戦をよく心得ていた。

 経験の無いリューヴ軍は方々で包囲され、前線は遅々として進んでいない。

「後方のタイタン軍に伝令に行ってくれるか、ズィーベン」

 ベルティエは坊主頭の歩兵を呼んだ。足の速い、肉体能力に優れるズィーベンを選んだのには理由がある。

 焦りは無い。しかし、現状は芳しくない。ここだけ上手くいっていても駄目なのだ。

「後詰が無くとも大丈夫そうだ。左翼にいるはずのA中隊の方向へ向かって広がり、援護に回りたいと思う。そして合流地点は、ここだ」

 地図を指差す。そこにあるのは、南ユドン駅。すでに交通機関など無いに等しいが、整備すればまた使える。南部の要所はまず、この駅だと思われた。ここに敵戦力がある程度は結集しているはずだ。圧倒的有利となった現状、後は速やかにユドン市からフルジア軍を掃討すべきだ。

 部隊をベルティエは停止させ、待った。もう、トラヴィス以外に知り合いはいなかった。

 

 路地を折れる。敵は二人。先頭でカントが一人斬り、ティアがもう一人を斬った。強力な先頭は弾頭。一度放たれれば、止まることを知らない。一撃でA中隊を取り囲む民兵を打ち砕き、その勢いのまま白騎士団は駅へ向かってひた走る。

 空から降り注ぐ銃弾で、後方一人が倒れた。位置、建物をマーク。足は止めない。

「二丁先を右、公園を抜けて南ユドン駅が見えるはずだぜ、ティア」

「任せとけって。一歩も立ち止まらねェ――――!」

 位置など知られてもいい。どこの軍かを探られても構わない。声を大にして言ってやる。知らないのなら教えてやる。これぞ、我らが巨人タイタン軍。悲鳴と共に末期に覚えよ。

 立ち塞ぐ敵。見えた。バリケードを用意し、銃座で構える。一斉に発砲し――――その全てを乗り越える。

 死。恐れるものではない。死。それは友のように、仲良きもの。はっきりと。敵兵の顔が歪むのが、見えた。女。その見開かれた目に、銃弾を叩き込んだ。

 一瞬、機関銃が止む。敵は市街の損傷を恐れてか、光学兵器を使用しては来なかった。好都合。射手が入れ替わろうとする間に、カントは横倒しにされた車体を駆け上がった。

 銃を構える敵を蹴り飛ばし、頚椎が折れた感触を知る。着地。体を倒し、槍で足を払った。ティアが見える。巨大な両手剣が人ごと大地に叩き下ろされる。そして、白騎士が殺到した。

 即座にバリケードを突破、敵を殲滅。足止めなど一瞬。減ったのは十二名。

「ここを右だ。公園は駆け抜けろ」

 右に折れる。出会い頭に敵兵が三。その喉元に槍の穂先を突き立て、引き抜く間もなく前へ、前へ。一ブロックも進んだ後、崩れるように敵が槍から抜けた。

 見えた。公園。さらに加速。息が上がってくる。誰もついてこれない。敵も、味方も。仲間以外、誰も。速い。銃を構えるより、引き金をひくより、速く。

 公園を抜ける。誰も、と思って市民が見えた。民間人。まだいたのか。小さく悲鳴。構わず、抜けた。右翼から進むベルティエ隊の姿が見えた。まだ進む。公園を後にする。目の前には、駅。大きい。

 そこで初めて、足を止めた。手を上げ、前進を止める。

「アンリ・ベルティエ。階級は大尉です。……ふ、鬼神の如き突進でした。初めて、ですよ。味方に恐れを抱くのは」

「リゴレット・リエンツィだ。そう言いながら、アンタの部隊もきっちり間に合ってるぜ」

 合流。あがった息を整え、再びカントは駅を眺めた。

 

 アンドロメダは、強く。カウンター・パレードと称された反攻作戦はほぼ成功し、戦争の帰趨はますますわからなくなった。

 そして、オレの単位もよくわからなくなった。もう開き直るしかない。こんな辺境に来る航宙船なんて、チャーター機しかなく、数日間は故郷に足止めである。まさか本当に飲みすぎて、潰れるとは予想していなかった。

 最初は笑って喜んでくれた家族も、いつしか申し訳無さそうな顔になっていた。本当に帰らなくてはならない事情があったのだ。単位とか単位とか単位とか出席率とか。

「いい場所なんだ、ケド。なんかちょっと寂しいかな……」

 塔から景色を眺めていたアリアが、そう呟いた。木、森といった自然がほとんど無い。レイモンドにとっては見慣れた光景だが、森で育ったアリアにとっては寂しいことこの上ない。

「わたしの故郷はね、森の中。白い家があって、海があって」

 家族が、いた。

 父などそもそも存在せず、母と会うことも叶わないが、家族はいた。

「――――オーちゃん元気かなぁ」

「お、何それ。淡い恋の予感ですねェ」

 こつん、とレイモンドの頭を叩く手。振り返ると、ルーシャが立っていた。

「面白そうだけど、手伝ってよ。晩ご飯やらないぞ」

「あ、お手伝いしたいです。ウルサのお料理とかも覚えたいですから」

 素敵な女性だなぁ、と感心する。可愛いし、歌は上手いし、何より献身的だ。見惚れるように二人の美人が談笑しながら去っていくのを眺めた後、少しだけ憂う視線で砂漠に視線を移す。寂しい、のだろうか。この星は。

 人は少なく、資源も無い。誰も欲しがらなかったからこそ、どこにも属さないでいられた。父が死に、兄が王となった今でも、それは変わらない。貧しい国だが、文化は豊かなはずだ。人々は明るいはずだ。貧しさの中にある、幸せを手にしているはずだった。

 レイモンドは幼い頃から、そんな街の風景を見続けていた。だから、自信を持って言える。誰も欲しがらない貧しい国。だからこそ、大好きな故郷。それはトゥリオイに住む今でも、変わらない。否、一層強くなったのかもしれない。

 案外、飲みすぎたのも自分の意思だったかもしれない。そんなことまで考えてから、砂漠に背を向けて自室へ戻った。

 

 塔の裏側。そこに、墓地がある。陽が傾いた夕刻。レイモンドが訪れると、すでに先客があった。兄のエドガーだ。ルーシャによると、兄は毎日、献花をかかさず、祈っているらしい。

 その隣に立ち、無言のまま摘んだ花を供えた。兄はしゃがみこんだまま、目を閉じている。父の墓。二年前からでは想像できないほど、レイモンドは自分が落ち着いていることを感じていた。これが、歳月か。父の前で、そう感じずにはいられなかった。

 むしろ、毎日訪れる兄の方が、立ち直れていないのではないか。薄情な男だな、と自嘲気味に笑ってから、兄の肩を叩いた。まだ、沈黙。しかし目は開かれ、エドガーは立ち上がった。

「父は、僕を認めてくれるだろうか」

「……よくやってるよ。オレならもう、保ってない」

 王族が嫌で、誰からも見られるのが嫌で、逃げ出すように留学した。この星を離れて初めて、この国を愛しているのだと気付いた。兄は、最初からそんなことは知っていたのだろう。だからこそ、王になった。

「レイモンド、日々は楽しいか?」

「ああ」

「困っていることはないか?」

「ああ」

「人生は笑顔に満ちているか?」

「ああ」

「今は、幸せか?」

「ああ」

「そうか。なら、良かった」

 視線はまだ、父に向いたまま。兄は呟きを繰り返した。レイモンドはすでに、見ていない。空を見上げて、答えていた。この星は好きだ。だが、きっと居場所ではない。

「そういう、アンタは?」

「わからない」

 もう空は見ていなかった。兄も同じように、父を見てはいなかった。視線が合わさる。墓の前で、見詰め合う。咎めているのか、とレイモンドは思った。王位も全てを投げ捨てて、逃げたことを。王位を押し付けられたと、思っているのだろうか。

 視線は、厳しかった。

「わからないが――――」

 ふっと、その目が穏やかに。たれた目が笑みを作っていた。先に立って歩き始める。レイモンドはまだ、動けなかった。前を行く兄の背だけを、見ている。

「僕はまだ、笑っていられる」

 王としての責務を。王の受ける重圧を。その全てを背負いながら、兄は許すと言っている。

 レイモンドは一度、深く、その背中に頭を下げてから、遠ざかる前に追っていた。

 

 夕食は、ひたすらに楽しかった。アリアの作ってくれた食事の話になり、創作風味の味付けに満足すればルーシャが立腹した。たまには、違った味も楽しめとレイモンドが言うと、図星だったのかエドガーは黙ってしまったからだ。

 それから、学校の話をした。なぜか胸毛自慢も始まった。夕食はいつしか宴席になって、へべれけになったアリアを運びにエドガーが退室してから、急に熱は醒めてしまった。

 こうして二人きりになると、息が詰まりそうだった。彼女は何も気にかけず、レイモンドの持つ器に酒を注ぐだけで、その仕草に見惚れていることさえ、気付かない。細い腕。ウルサ種特有の大きなたれ目とふくよかな体に、どうしても目がいく。酒のせいか、より一層、艶かしくだ。

 昔から、この人に憧れていた。好いてもいただろう。それは、きっと今でも。変わらないのかもしれない。

「随分、強くなったね。もうかなり飲んでるのに」

 そういうルーシャの言葉も、少しおかしかった。酒豪だ酒豪だ、と思い込んでいたが、レイモンド自身もいつしか仲間入りしてしまっていたらしい。

「兄ちゃん、遅いな。まさかアリアさんを襲ってんじゃねえだろうな」

「それは一大事だねぇ」

 冗談。だが本当に、なかなか帰ってこない。兄の顔を見れば、この不埒な感情も消えてくれる。あの兄だけは裏切れないと、強く思えるのに。

 探してくる。そう言って、レイモンドは立ち上がろうとした。かなり、酔っている。足元がぐらつき、思わず手を出すルーシャとぶつかった。

「ヤバい。姉ちゃん、ちょっと見てきてよ」

 ヤバいのは兄か、自分か。よくわからなかった。

 簡単に頷いてくれた彼女は身を離し、部屋から出る。その背を目で追いながら、思わずへたりこんだ。本当に心臓に悪い人だ。

 ルーシャが寝室で酔い潰れていた夫の姿を確認し、部屋に戻ってくる頃には、弟も同様に寝込んでいた。

 

 二日遅れでチャーター機に乗り込む。アリアはしばらく滞在して身を隠し、情勢が落ち着いた頃に戻るようだ。それはエドガーも快諾し、何の心残りもなくレイモンドは出立できた。

 次はいつ、この地に帰ってくるのか。おそらく、そんなものは自分の意思次第だろう。帰って来たくば、戻ればいい。戻らないとしたら、新天地に夢を見つけることが出来たのだ。そう、楽観して見送りの人々を眺める。

「兄ちゃん、ウルサを頼むぜ。姉ちゃんは子供の一人でも産みな」

「……言うに事欠いて、ソレか」

「違うって。一番伝えたいこと、かな?」

 冗談気味に笑ってから、陳腐な嫉妬の裏返しかもしれないとも思った。そう思う自分を嫌悪し、アリアにも手を振って別れとした。別れ。しかしいつでも、簡単に会うことは、きっと出来る。気持ち一つで、出来るのだ。

「そんじゃね。達者でやりや」

「アキも遊んでばっかいないで勉強しなさいね」

 耳に痛い一言を受けて、あっさりとレイモンドは航宙船に乗り込んだ。

 

「エディ。何を見ているの?」

 自室。背後から、ルーシャの声が聞こえた。エドガーは窓から空を見上げているだけである。この空に弟は消えて、そしてこの空から弟は現れる。この空の向こうに。何があるのだろうか。星があり、命があり、そして死もある。

 ずっと考えていたことだ。人には繋がりがある。隣の家の人。隣の町の人。なら、隣の空の人とは繋がっていないのだろうか。

「より良き、明日を」

 見えはしなかったが、見ようとしている。この星はこれでいい、と思うところもある。だが、空を拓き、他の星と国交を得れば、きっと人は笑顔になれる。そんな気がした。

 かすかに、何か聴こえた。目を閉じる。歌声。高い声音の、美しい旋律だった。意識が引き寄せられるような、歌。音が、心地いい。そっと、背中に何かが触れる。人のぬくもり。ルーシャの重み。この世、この世界全てが、心地よかった。

 歌姫。声一つで、感情も意識も変えてしまうような、不思議な力の持ち主だ。

「凄く……キレイな声」

「静かに。今はただ、この歌に酔っていたいんだ」

 窓の外。下のテラスから聞こえる音楽に陶酔する。ルーシャにも思いは伝わったのか、より強く背中を抱きしめてくるだけで、声は発せられなかった。

 何かを、考える。

 自分は何が、出来るのだろう。何をしなければならないのだろう。

 ふと、音が止まった。

 目を開く。あるのは、青い空。流れ星がひとつ、きらりと流れた。

「今のは。何だろう」

 窓から身を乗り出す。階下にいるアリアも不審そうに空を見上げていた。星。星が落ちてくる。

 流れ星はひとつ、またひとつと落下し、やがて砂漠を燃やしていた。

 

外地人シサムが大挙し、正門に迫っています。いずれも、武装しています」

 衛兵からの報告を受ける。あまり、頭には入らなかった。ただ自分を滅ぼすものだとは、わかった。国を守る。今、すべきことはそれだけだ。

 弓を背負い、剣を持ち、塔から出た。人々が集まっている。兵士だけを選別し、守りにつかせる。一般人には家の中に入って固く門を閉ざせと伝えた。出すべき指示を全て出した後、他に何かあるかと考えながら、ようやく誰が何のために、と考えられるようになった。

 相手が判別すれば、交渉の余地はある。最悪、講和という手段もあった。

「正門、破壊されました。敵兵が多数入ってきています」

 次に入った注進で、あらゆる希望が打ち砕かれた。ところどころで火の手が上がっている。青い空が、煙に焦がされている。エドガーは何故か、塔の入り口をしっかりと閉め、それからふらふらと街中へ躍り出ていった。

 敵は、あまりにも強すぎた。フルジアともアンドロメダともわからないが、光猛る武器を手に、世界を燃やし尽くしながら、整然とここへ向かっている。なら、こちらから出向いてやろう。それで少しでも、人が助かるなら、と思った。

 左右に五名ほどの護衛を携え、ついにエドガーは敵を見た。

 白金。人とは思えぬ異形の敵。無骨な鋼鉄で覆われた、歩行戦車。それが隊列を組みながら、まるで作業のように国を破壊していた。止めようと立ち向かう兵士は簡単に蹴散らされ、人形のようにあっさりと弾かれ、斃れた。

 その中央に、微笑みながら前進する男がいた。目が合う。彼は手を上げ、進軍を止めた。

「ほう、我の目の前に現れたか。度胸だけは買おう」

「何者だ。何故、この地を狙う」

 彼は足音を響かせながら、前に出た。一人。腰に剣を佩いているだけで、単なる人間だ。だが、違う。目は強く、強く意志を伝え、その空気、その人そのものが圧倒的な威圧感を持って具現していた。おそらく、これが「王」なのだとエドガーは思った。

 

「ただ、在るが故に」

 

 動機は、至極、単純だ。あるから、欲しい。あまりにも単純すぎる理由に、思わず笑いそうになった。

 笑う代わりに、剣を抜いた。男の目の色が、少しだけ変わった。彼は歩み続け、やがてエドガーの前にまでやって来る。手には、すでに剣を持っている。決闘だ。この国を賭けた、戦い。負けるわけにはい

 

 

 六人を斬り殺し、血のついた剣を投げ捨てた。残存兵の掃討もそろそろ終わった頃だろう。一時間ほどでウルサの制圧は終わってしまった。投降した者を殺し、それで終わる。すでに何名か、塔の中に突入している者もいるようだ。

 敵ではなかった。敵になるほどではなかった。それでも、退屈しのぎくらいにはなった。

 フルジア相手ではなかったから、光学兵器や機械兵器を使えたのが大きかった。本番では、こうはいかない。それでも、実戦経験を積むのは大切なことだった。それだけで、善しとした。すでに開け放たれた塔へと足を踏み入れる。

「今の時代、ここだけ独立なんぞ出来るワケねェんだよ」

 服従か、滅亡か。第三勢力も日和見も許さなかった。王は殺した。軍隊も消した。後は新たな執政官を送り、解決だ。そのあたりは、カルディアが上手く調整するだろうと思った。リューヴ領にしてしまってもいい。借りた兵士は全て、リューヴ国軍でもあった。

 上を目指す途中、悲鳴が聞こえた。女の悲鳴だった。思わず足を止め、その部屋に飛び込む。数名の兵士に囲まれた声の持ち主。あまり着飾ってはいないが、王家の人間だと直感した。

「皆、止めろ。王女か王妃か知らんが、王族だな」

 初めて、ウルサ人というのをまじまじと見た。背は高く、頭部が小さくバランスのいい体型をしていた。肉付きが良く、太くはないが豊満な体をしている。そもそもウルサは狩猟種族で、タイタン人に近い筋肉ダルマだ。

 目の前の女性は、目が大きくやや垂れた可愛らしい顔の女だった。

「貴様、名前は?」

 かろうじて、聞き取れるほどの小さな声だった。ルーシャ・レイヴェンスウッド。王家の姓など知ったものではないが、間違いないだろう。殺すか、どうするか。しばし悩んだ。あまりうるさくするようだと、即座に殺すところだが、怯えるだけで慌てたり、騒いだりする様子はない。

「連れて行ってみるか」

 気まぐれのように、そう呟いてみた。どうせ王家の人間は生きていない。身寄りのない王女を捨て置くより、ルテティアに連れた方が彼女のためだ。悲しみなど知ったことではない。そんなものは、時間が癒すだろう。

 決めたら、もう興味は失せた。背を向けて、再び上を目指し始める。

 目的は、歌姫奪還。それだけだ。

 

 アリア・ローゼンミュラーを発見し、部屋から余人を追い出して、さらに遠ざけた。彼女とは二人で会うべきだ。アハトさえ、外した。聞いてほしくないからではない。こちらが、訊ねたいからだ。

「……まだオフェリア様の真似事をされてるのですか、貴方は」

 最初から、敵意しかない。その言葉は確かに、胸に刺さる。痛い言葉。ニセモノ。そう言われることは、苦痛でしかない。だが、何が真実かわからない。誰が正しいのかなどわからない。

「真似事、か。そんなつもりはないんだが」

「では退位してください。そこはオフェリア様の椅子です」

「悪いな。そいつはパスする」

 二十二年間。生きた証が、今だ。それを拒絶することなど、出来ない。

 失敗もした、成功もした。笑った、泣いた、怒った。その結晶が、今の自分だ。捨てられない。捨ててはならない。他の誰かに譲ることなど、考えられなかった。俺は、俺だ。そう叫んで、何が悪い。何が間違っている。誰か、教えてくれ。

「神皇になりたいから、なった。ウルサを滅ぼしたいから、滅ぼした。これは全て、俺が決めたことだ。それが、他の誰かの決定だと、誰が言える。それは傲慢じゃないのか」

「根底を間違っているの。何故、貴方はそうできた?何故、貴方はそう思えた?その全ての根っこが、間違ってる」

「ならば神に言えッ。オマエの愛する、神様にな」

「それこそ、何を。……神は貴方だというのに!」

 少し、激しく言い争った。後悔するように、沈黙が生まれる。アリアがどうしてここまで、自分を批判するのかわからなかった。そこまで、自分は悪いのだろうか。俺が何をした。俺が、何を。

 思わず、心が折れそうになる。耐えた。足に力をこめ、己の力で立ち続ける。負けてなどいられない。折れることなど許されない。真っ直ぐ、立ったままでアリアを見つめる。

「――――なぁ、アリア。答えてくれよ」

 純真な瞳。歌姫の目は美しく、純粋だった。自分の目は、濁っているのだろうか。そんなことを考えさせられる、目だった。

 

「俺が偽物だとしても――――俺のしたことは、間違っているのか?」

 

 戦争を終わらせようと、思った。だから考えて、考えて、何とかしようとした。

 誰もが認めてくれるような、英雄になろうとした。だから、戦争も何もかも、終わらせて。新たな時代を欲したのだ。

「貴方、は――――誰ですか?」

「さぁ、誰だろうな」

「貴方は、何を望みますか?」

 

「歌ってくれ、アリア。皆を笑顔にする、平和を」

 

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