手は血と罪に濡れ、骸の野山に我は立てり。
贖罪を求め、罪悪に溺れ。
ただ亡くした涙が空から降った。
それは、譜に似て。
怨嗟の声は系統正しい譜に似て。
自由を求めて少年は、今日も狂詩曲を奏でるだろう。
1
巨大な鳥かご。箱庭の城は白で覆われ、さながら、精神を病んだかと錯覚させる。森の中に孤立した白亜の城。俯瞰で見たのなら、この星は子供が作るミニチュアの星だった。
ルテティア・パリシオールム。それが、惑星の名前。人間が入ることを許されない未開の惑星。そこにぽかりと、巨大な聖堂がある。神々の住む宮殿は壮大で、森から空を突く槍に見える。神を目指した人の拠点。オリュンペイオンの名で知られる建造物こそが、この星の全て。
白い礼装を着衣とし、私室の扉を開く。部屋の前には、二名の従者。俺は偉そうに指示をし、もったいぶって命令を下すだけ。鳥かごの中での自由はあるが、常に、上には誰かがいる。
きっと自分が屋敷から逃げ、惑星を出たならば。リューヴ本国から追ってが来て、殺される。それが、宗教の在り方だからだ。一度、声を上げれば人はつく。自信もある。そして、可能だと思うからこそリューヴはここに自分を押し込めている。
「――――そんな真似、しねェが。生憎、居心地は悪くはないもんで」
「はい?何か、言いましたか?」
客間にいた訪問者に聞かれていたらしい。陽の光が差し込む応接室、ソファに座るリューヴの大統領がこちらを見ていた。長い髪の毛に、優しげな微笑。戦時中の大統領とは思えない物腰と年齢。
「カルディア。オマエ、相変わらず雄々しさが無え」
「貴方は荒々しすぎるんじゃないですかね、オフェリア?」
「なら、オマエにくれてやるよ。こんな城、もう飽き飽きだ。代わりに大統領は俺がやってやるさ」
割かし本気で言ったが、カルディアは冗談と受け取ったようだった。指を口に置き、微笑を崩さず、軽い口調でそれもいいですね、などと呟いて遠い空を見つめている。窓の外。人の手が届かない世界のはずなのに、完璧に管理された景色が広がっている。
リューヴの大統領。彼の仕事は、単に一つの惑星を統治するだけではない。現在は目下、フルジアを中心としたおとめ座銀河団と交戦中である。アンドロメダ銀河団をまとめるカルディアの心労など、想像に難くない。
彼は時折、祈祷と称してリューヴを抜け、ここルテティアの宮殿にやって来る。アンドロメダ銀河団に浸透している宗教の総本山に参拝するのは、別段、不思議なことではない。誰もが形だけでも、宗教に帰依しているのだ。
「宗教というのは、不思議なものですね。こうしてここにいるだけで、煩雑な日常から解放されて心休まる」
「ここには何にも無えからな。宗教というものはただ其処にあるが如く、空気、いや違うか、ミネラルウォーターみたいなもんだ。無くても別に生きられるが、必要なもの。あれば心を豊かに出来る。普通の飲料水と味の違いなんざ大差無いのにだ。要は気持ち次第、さ」
「これは、ありがたいお話をお聞きしました」
儀礼がわからなくとも、葬式は出来る。死者を悼み、送ればいいだけのこと。それをもったいぶって儀式にすることで、死者の安楽を得られたと自認し、生者もまた、安楽を得る。無くとも生きられ、しかし、あると豊かになれるもの。宗教の位置付けは、そんな自然に、日常に溶け込むモノが一番いいはずだった。
「依存さえしなければ。人は幸福から苦難、生き死にさえ神のせいにする。楽、だからな」
「責任の所在ということですか。楽をしたがるのが人。なれば、責務という鎖から逃れようとするのも当然かと」
「悲観的だな、オマエ。悲観するのは今だけにしろ。物事ってのは、悲観して構え、楽観して進むのがコツじゃねえか」
「ええ、ですね。またありがたいお話を頂戴しました」
一つだけ年下の大統領は、まだ微笑を続けていた。その表情が、幾分、疲れている。下手な詮索はせずに、単に逃げたかっただけかもしれないと思った。
カルディアが城を退去し、ルテティアの中心であるオリュンペイオン大聖堂に向かったと同時、もう一人の客人が入ってきた。一日に二人も訪れるのは異例である。ただ、こちらは仕事でもあった。
あどけない表情を残した少女を、私室に招き入れる。給仕たちを遠ざけ、ソファに座り込む。資料を持った少女は、まだ立ち尽くしたままだった。律儀にも、命ぜられるのを待っているのだろう。
「――――オフェリア様、ヴェルクからの達しと、ご報告が御座います」
本名を呼び、少女は直立したまま指示を待っていた。フルジアに存在する情報組織からの連絡。クンスト・ヴェルクの名で知られる組織、その一員を担う自分に指示があるらしい。この少女も、同じく組織の人間である。
「カメリアの一件か?なら、その後を聞かせろ」
太陽系の隣にあるネアポリスという星系、そこの第四惑星カメリアで歌姫アリア・ローゼンミュラーが失踪したという事件。救出チームの三名は、アリアを連れてカメリアから脱出し、直後、人工惑星は四散した。カメリアに上陸したフルジア軍、太陽系の同盟軍、そして百万の民が死滅したとされる。
「まず、アルフェラツ星系第二惑星ティール所属警備業務専門ギルド、セキュアに所属しているセリア・イザークは小型艇奪取後、ルテティア・パリシオールムへ上陸。アリア・ローゼンミュラーを降ろしティールへ帰還しました。同様に、太陽系第五惑星土星衛星タイタンのリゴレット・リエンツィはリューヴへ。指揮官であったとされるフルジア星系第一惑星フルジア所属情報ギルド、クンスト・ヴェルク所属序列第二位オペラ・レーヴェは行方が掴めておりません。推察するに、」
「いや、言わずともわかってるから」
オペラ・レーヴェの消息など聞かずともわかっているし、人物談を聞いても意味がない。少女の言葉を遮り、他の案件を訊ねてみる。
おそらく、アリアはアデレードと共に行動をしているはずだ。妹の、アデーレ・フォーレはフィルウィリミテア教の最高司祭。聖女として、今日もどこかで慰問だの何だのと働いていることだろう。
「では、ヴェルクからの指示を。カメリア崩壊の後、アンドロメダは一斉反抗に出ると推察されます。その際、リューヴ大統領の指揮権を剥奪し、ツェルニー元帥へと軍権を委譲させるよう工作をせよ、とのことです」
「お坊ちゃんに指揮はさせないってか。わかった、方法は一任しろと言っておけ」
彼女は結構です、と頷いて資料を燃やす。命令自体に文句は無いし、しても仕方がない。容易く受け取り、用の済んだ少女は退室しようとする。それを、呼び止めた。
「わざわざ、悪いな。礼を言う、フィア」
「――――いえ、指示ですから。お気をつけて」
名で締めくくった礼の言葉。返る言葉に、名は無かった。
2
開戦から、すでに三十年。生まれる前から始まっている戦争に、興味はない。日常と同じように、ただそこにあるものだ。物資が欠乏しているとしても、特権階級に滞留していれば飢えることもなかった。人口が飽和状態にある今日なら、少しくらいは戦争で人が死ぬのもいいかもしれない。
三十年という時間の経過は、世界にメリットとデメリットを与え、大きく変えてみせた。肯定論すら出始めていることだろう。故に、戦いは終わらず。深き混沌の渦を生み出し、明日の行く末など、誰にもわからなくなっている。
別に。どうでもいいことだ。戦争を止めよう、という英雄じみた決意も持ち合わせていない。大した意志も無く、ただ日常に流されるだけが、我が人生。大半の人間がそうであるように。自分もまた、生きる一人に過ぎない。英雄には、大統領だの聖女だのがなればいいのだ。
それが、オフェリア・フォーレの生き様。全てに中立であり、与えられる仕事も、どちらかに加担しているわけではない。今回はフルジア。次はカルディアの指示で、フルジアを探るよう動くかもしれない。
争いの火種はそこそこに転がっていて、火さえ近づければすぐでにも、燃える。
「晩餐にお招きいただき、光栄に存じる。某のような単なる軍人に、何か御用かな」
とある晩餐の席。リューヴ国軍の司令官を呼んでみた。年若い元帥は精悍な表情のまま、テーブルについた。齢四十八、開戦時は士官として最前線に立った人物で、現場主義の司令官。アマデウス・ツェルニー元帥はその功績を持って現在の地位を築いている。
兵からの信頼は厚く、指揮能力にもまた優れる。白兵戦闘の重要性を真っ先に説いた人物で、リューヴの中でも革新派だった。一方で叩き上げの軍人であり、政治には疎い。政治家への道は歩まず、いまだ現役の軍人である。
士官を二人ほど連れ、油断ならない視線を向けてくる。教団として兵を持ち、勢力を築く我らを敵視しているのだろう。ただ、九年前にアデーレの親、つまりフォーレの夫婦が殺害されたことによる護衛兵という立場である。表立って批判をすることは、さすがに憚られる。
「相談がある。そこのお二人には、一切、口を閉じてもらいたい。今も、未来も」
「密議なら取り合わん。貴公は大統領と親密な関係なのだ、直接話を通せばいい」
「単なるアドバイスだ。実行するもしないも貴方次第、聞き流してもらっても結構」
構えが、変わる。軽い気持ちで挑め、と緊張を解させ、ディナーを運ばせる。楽隊を呼び、演奏も始めさせる。士官の二人は、やや驚いているようだった。貴族の暮らしなど、他所から見れば愚行に過ぎないだろう。驚くというか、呆れる。
暗い雰囲気で重大な事項を話せば、密議になりかねない。まずは空気を軽くし、雑談の中に目的を混ぜていく。あくまで、決断するのは相手。こちらはカードを見せるだけで、切ることはしない。
「カメリアの一件が耳に入ってな。自爆とは感心しないが、好機には違いない」
「歌姫失踪のことか。フルジアの間者も紛れていて、暗殺を仕掛けたようだ。幸い、歌姫は無事で、暗殺者も姿を消した。攻め入る名目は、これで立つ」
「悠長なことだ。領土を侵犯されているってのに」
若々しい元帥が黙る。若い頃は相当な美男子であっただろう。何せ、アマデウスだ。神々に愛されし者、という名。彼の人気も、単に能力だけではない。
「何にせよ、反攻作戦を展開するのは今だ。フルジアの前衛を壊滅させたのだからな。今を持って、マジェラニックを回復させるべきだろう」
「銀河系、及びマゼラン銀河の全域を奪還する。前線を開戦時にまで押し戻せればよいのだが」
現在、勝利しているのはフルジアである。銀河系とマゼラン銀河ネアポリス星系を侵略し、領地としている。休戦をするにしても、勝者が休戦を受ける理由はない。開戦時の状態にまで戻せたなら、ようやく停戦の希望が見えてくる。あわよくば、そのまま押し込める可能性さえある。
「失敗は許されない。そんな作戦を、だ。実戦経験のない大統領や、前線を知らない閣僚に任せるつもりか?はっきり言おう。俺たちが負け続けた理由はな、その体制だ。フルジアが強いのは、妥協をしていないせいだ。前線は軍に任せる。統治は政治家に任せる。その判別をしっかりとしたからだ。同盟などは彼らに無い。服従か、死かだ。そうやって第二銀河団を強固にまとめた結果だ」
リューヴは違う。銀河系が侵略された時も、リューヴ星系からの援軍は少なかった。出したところで、太陽系の面々が拒否したことだろう。アンドロメダの体制は、各星系の連合体のようなものだ。フルジアという超大国と、寄せ集めの連合体。勝敗は自ずから見えているようなものだった。
自国、という概念が薄い。別の人間が統治する、別の場所で、関係が無いと思ってしまう。地球のことは地球が、リューヴのことはリューヴが。そんなシステムでは、強固なフルジア軍に勝てる道理はない。まして、立ち向かうのは現場を知らない閣僚と大統領である。遠いリューヴで命令を出し、前線は状況のよくわからない命令に従い、死ぬ。
「全ての権限は大統領にある。そして閣僚が賛同しなければ、何も出来ない。一極集中の権力は危険だ、オフェリア様」
「じゃあ、聞くが。カメリアは大統領の命令ではないだろう?」
そういう判断を、しなければならない。カメリアの住人を巻き込んででも、勝つ。数多の犠牲の上に、こんな機会がやって来たのだ。カメリアが崩壊しなければ、戦線はさらに押し込まれていた。
「――――確かに、私の計画だった。フルジア軍上陸と共に、歌姫様を脱出させ、住民も退去させる。今回の件が無ければ、そうしていただろう」
「そういう判断が、アイツには出来ない。閣僚にもだ」
犠牲を恐れて撤退し、結果として負け続ける。物量ではこちらが勝っているのだ。少々の犠牲を気にしないくらいの、力押しは可能だった。そしてアマデウスなら、その方法を選ぶだろう。まず、勝利。全てはそこから始まる。
時として、軍を握る彼は最高の権力を持ちうるのだ。それに、アマデウスは気付いていない。
「大統領には、言ってみよう。に、しても。何が望みなのだ、貴殿は」
「別に。ああ、退屈なんだ。非公式でリューヴにでも呼んでくれよ」
それぐらいなら、カルディアも了承するだろう。なんということもない、簡単な望み。しかし、鳥かごから出たいという、渇望に似た自由への望み。
神秘の存在とやらでさえ無ければ、こんな生活にはならなかったのに。
「お安い御用だ。しかし、なぜそこまで大統領を追い詰めるのだ。友達だろう、貴殿らは」
「俺なりの友情だよ。ちょっとばかり歪んだ、な」
3
カルディアから旅券が届いたところで、手を鳴らして人を呼んだ。体の小さな、少年のような人物が現れる。クンスト・ヴェルクの序列第八位に属するアハトである。主にノインと同様、情報収集を任務とする。使い道はさほど変わらない。ただノインは女性でフルジアに潜伏していて、アハトは男性でリューヴにいる。
アデレードの消息が、気になった。つい先日にあった、偽物騒動で気を病んでいることところにきて、この事件。オペラ・レーヴェに関しては、早々に始末をつけなければ面倒になるかもしれない。
アハトの情報は、レーヴェが完全に消息を断ったことと、アデレードがアリアと共にリューヴから姿を消したこと。指揮権の問題でゴタゴタし始めたリューヴから遠く離れることは、有利なことだ。しかしフルジアに向かわれては面倒でもある。
「太陽系がどう動くかだな。ふん、そう考えると、リゴレット・リエンツィの存在がウザい」
オペラ・レーヴェ同様、彼らのメンバーであるリエンツィはタイタン人として厄介な存在だった。何せ、タイタン十七首長の盟主であるトリスタン・シュトラスブルグと懇意だった。あの二人が画策し、今回の反攻作戦に手を打ってくるということも考えられる。
アデレードも馬鹿ではない。反攻作戦がリューヴで企画されていることくらいは気付いている。それに影響を及ぼす何かを彼女は狙っているはずだ。例えば、勝利を完璧なものにするため、タイタン人と手を組む。
リエンツィとセリア・ウェーベルン・イザークを乗せたフルジア船は動き出している。やはり、頃合だ。この世界、正しく導くには正しい旗と方向性が必要だ。
「リューヴに入る。供をしろ」
「オレが、いいんですか?」
「構うか。文句を言われたらぶっ潰してやるから安心しろよ」
現在、オフェリア・ヴァン・フォーレは公表されていない存在。アデレードの兄という存在は、まだ身内にしか知られていない事実だ。故に、この星に縛り付けられていたのだが。もう、時代がそれを望んでいない。
世に出る。もう守られるだけの存在は、御免だ。
「スカラが動いているということは、オペラを回収したのか」
「厄介なコトにならなきゃいいんですけどねぇ」
「今は無視するしかねぇな。アンドロメダの船じゃ追いつけねえ。ま、その方策を教えるために行くんだ」
妹と同じ顔をした少女。その存在が、どれほどこの戦争に火を点けるものなのか。
リューヴ星系、第一惑星リューヴ。世界の中枢。中央惑星。この世界のどこよりも発展をしている惑星だった。星都フラリス市を中心として、巨大な都市圏が形成されている。カルディアは気を利かせたつもりなのか、一般民と同じように、都市郊外にあるゼルスという街のエアポートに着陸した。
アハトと二人でタクシーに乗り込み、政庁のあるフラリス市街に向かう。金なら、腐るほどある。フォーレ家の資産は大富豪とも呼べるものなのだった。
「うおぉ……ビルがデケえなぁ……」
「アホ面してると田舎モノっぽいっすよ?」
タクシーの小さな窓から身を乗り出すように、鼻先を突きつけて景観を楽しむ。アハトの馬鹿にしたようなセリフに突っかかる気も起こらない。仕方がないのだ。ルテティアから一歩も外に出たことのない人間にとって、この街はすでに驚異的ですらある。
「おい運転手、あの右手の建物は何だ?」
「は、はぁ。ありゃあラグーンホテルの一つでして。もう市街に入ってますんで、一番大きなセイクリッド・ラグーン・ホテルですね。つい先日に完成したばかりで」
内心、どこの田舎の王子様かと苦笑する運転手に、仔細を教えてもらう。リューヴはセイクリッド、即ちフィルウィリミテア発祥の地。やはりその名を神から冠するケースが多いようだ。事実、リューヴ大統領ですら、その任地からか、ルテティアに執政者として承認をしてもらうという形式をとる。
形式上だけなら、世界を動かしているのはフィルウィリミテア教ともなる。もちろん、実権は全くないので、名だけなのであるが。それでも、人を動かすことは出来た。威光、とでもいうのだろうか。人はリューヴ=レイスを信仰し、その言葉に従う。
「なら、アレは何だ?」
「レプリカ・セイクリッドですね。リューヴ国内の大聖堂でありまして、ルテティアに行けない一般市民にとっては最高府ですわ」
「大将、知らないんすか?原始リューヴの国、聖セイクリッド皇国王城をそのままレプリカしたものでやんすよ」
「ほぉ――――ん。知らん。まったく知らん。じゃあ本物は残ってないのか?」
「ええ、サピリオ侵略時に破壊されたというのが統一見解っす。まぁ学者の中には、リューヴのどっかに未発見の大陸があってどうのこうの、っていうトンデモ説もありますけどねぇ」
リューヴの科学力で、それは考えられない。未発見の惑星や、未開の星ならまだしも、世界一発展しているリューヴが自身の惑星において未発見の領域など考えられない。地底にあるのならあるかもしれないが、そこで人が暮らせるとは思えないし、何より滅びるはずがなくなる。
「……大将、ホントにリューヴ人なんすか?」
「うっさい。田舎モノに無茶を言うな」
開き直ってふんぞり返る。すでに、市街の中心部。政庁はもうすぐそこにあった。
超高度の技術都市。その景観に圧倒されながらも、徐々に慣れてきたのか、それとも政庁に近付いたからか、思考は酷く、透明になっていった。
オフェリア・ヴァン・ガートルード=フォーレ。その名を知る者は少数だが、威風は堂々と、リューヴ=レイスと認められるには充分すぎる容姿だった。隣を進むアハトと比べ、さほど大柄ではないが、そこそこの高身長と妹に似た長い髪、そして秀麗なマスクを持った好青年。
何より、その身にまとった雰囲気が。王者と呼ぶに相応しい貫禄を持っていた。まだうら若い青年ではあるが、威風堂々とはこのことを指すのだと誰もが感じ取る。一挙手一投足に注目が注がれ、また貫禄のある仕草で返す。
廊下を案内され、カルディアの私室に通された。部屋には大統領一人しかいない。ルテティアで会った頃より、まだ疲れているようだった。今頃は、アマデウスと指揮権争いで不利な立場に追い込まれていることだろう。
「従者を別室に案内してやれ。俺は大統領と話がある」
知人であることは知っているらしい。政庁に隣接する形で置かれた大統領邸宅。雇われている女性が恭しく礼をしてから、アハトを連れて部屋の外に出て行く。彼の持つ情報に関しては、ほとんど頭に叩き込んでいた。余計な口出しをされるより、二人で話を煮詰める方がいいのだ。
カルディアは無言で執務用のデスクから立ち上がり、設置された高級そうなソファに座った。テーブルを挟んで対面のソファに腰掛け、弱々しく微笑む彼の顔を眺めた。
アマデウスとの権力闘争では、おそらく負ける。十九歳で政界の重鎮たちに担ぎ出されたお飾り大統領と、若年から軍を率い、人望厚く誠実である国軍の元帥であるアマデウスとでは話にならない。まして今は戦時下であり、しかも敗戦近い。弱腰の政府よりある程度強引に事を運べる軍部に国を任せる方が得策である。
「そんなモノ、投げ出せばいい。大統領を譲るワケではないんだ、カルディア。テメェの下で働いて功績を稼ぐくらい、大目に見てやれ。名を捨て実を取る、ってトコだ」
彼の意思は、あまり関係がなかった。例え強硬に指揮権委譲に反対したとしても、いつか議会で決議され、強制的に移行されるだけだ。ただその時期が早くなるか遅くなるかだけの違い。だが、その違いが戦場で命を救うことになるのかもしれない。
「まして、ツェルニーに限ってクーデターは無いだろう。あの男は誠実なことが全てだ。仮にクーデターを起こしたとしても、それは今まで築いた全ての信望を捨てることになる。そうなったツェルニーを消すのは簡単さ。オマエの権限を増やしたいなら、これほど簡単なこともきっと無い」
「そういうのは嫌ですね」
幾分、気力を取り戻したカルディアが反論をする。意図は伝わったようだ。ここでカルディアが軍権を手放すことで生じるデメリットなどまるで無く、メリットだけが残るのだと。希望的観測でも何でもない。全ての人が笑って納得する答えが、それなのだ。
「ま――――心配はしてないんだが。今日の用件は違うコトだ」
それが本音である。カルディアの決断は、きっと間違わない。間違えたとしても、どうにもならない。若くて理想主義の大統領、という人気がわずかに鈍る程度だ。
「ルテティアで起きた、偽物騒ぎを知っているか?」
「偽物、ですか?いえ、聞いてませんね」
顔を上げ、興味有り気にカルディアは首を振った。あまり他言すべきことではない。だが、これからは逆襲。どちらが本物で、どちらが偽物か。その答えがすでに出ている以上、座して見守る必要はない。
アデレードとオペラ・レーヴェ、そしてフルジア船籍スターフリゲート、スカラの一員によるルテティア強襲の事件の仔細を伝える。妹と同じ顔。同じ声。同じ形。それが何者であるかはわからないが、突風のように現れ、そして消えた。
「そのオペラ・レーヴェが本物である、という可能性は?」
「まず、無いな。俺の血族はアデレードだけだ。双子の姉か妹がいた、という考え方があるが、他に妹がいた記憶は俺に無い」
「ふ、興味がありますね。オフェリアの昔話など、聞いてみたいものです」
「あ?そうか、話したことなんかなかったもんな。母が病死するまでは、平和だったぜ。俺とアデーレ、そして友達がいて、よく三人で遊んでいた。親父と母がそれを見守っていたな」
「なら、その友達というのは?」
「カデンツァの息子だ。最初、ソイツがオペラ・レーヴェかとも思ったんだが、男だったからな。除外していいし、何より、親父にブチ殺されたことを覚えている」
死んでいる。彼の父親と共に、カデンツァは我が父に滅ぼされた。それからだ、全てがおかしくなったのは。妻を亡くした悲しみからか、父はどこか、狂っていった。
「英雄になりそこねた男、ってヤツだ。祖父の影響が大きかったんだろう」
「休戦の英雄、オベロン・アリエル・ペリクリーズですか。偉大すぎる父を持つと苦労をするものですね」
おかげで、自分は違った。狂人のような父親を持ったおかげで、引け目は無い。父を超えようとも思わなかった。そう考えたところで、オペラ・レーヴェは本当に妹なのかもしれないと思った。伝え聞く父の姿に、どこか似ているような気がするのだ。
それでも、贋作には違いない。いかに真に近付いたところで、本物になどなれない。
「神皇になろう、と思って来たんだ。俺が世に出ることで、少しは混乱も収まるかもしれない。あるいは混乱するかもしれない。だが、将来を思えば。それが一番ではないかと」
カルディアの顔が、一変した。神皇。それは、フィルウィリミテア教の最高権力者になることを意味している。今まで、神皇の座についた者はいない。神話上の話だ。それは聖書のように、創作の話だと思われている。だがそれを信じてこその、宗教である。
現在は最高司教、司教を束ねる者としてアデレードが頂点にいる。大司教とも呼ばれる存在だ。司教は二人。総本山であるオリュンペイオン大聖堂の長であるユミル、ハーミア・リラ。そして母星となるリューヴの統治者であるカルディアが相当する。ただし、カルディアは名目だけで、実際に儀式を行ったりはしない。
これらは全て、神に仕える者として代行者の意味を担う。神皇というのは、神と等しいのだ。つまり、司教である人物が信仰する、神そのものということになる。神話の上では、かつての聖セイクリッド皇国皇帝が就任していたようだ。
「狙いは二つ。フィルウィリミテアの尊厳をより誇張することで信仰を深めさせ、フルジアへ攻め込む名目を強化する。そしてもう一つは、この俺という存在を世間に知らしめること。オペラ・レーヴェなどすぐに霞む」
「ルテティアの発言力はさらに高まりますね。仮に就任したとして、その後は?」
「場合によっては、戦場に赴こうとも思っている。アデレードやアリアと違い、戦意高揚を同じく目的としたとしても、俺なら生存確率が上がる。もっと危険な場所でも行ける」
一人の兵士とカウントしても、アデレードやアリアとは比べ物にならない。単なる兵卒以上の力を持つ。純粋に有能な兵士ならば、戦場から帰還出来る可能性も上がるだろう。
そして、士気を向上させられる。決して折れない旗なのだ。
「神皇になるには、オフェリア以上の適任者はいないでしょう。すぐに民衆が受け入れられるかどうかが問題ですが」
「例え、偽物と言われてもいい。実力を見せれば落ち着くさ。そうやって、俺たちは今の地位を築いたんだ」
それほど立場が変わるわけでもなかった。現在でも、公表はしていないが、アデレードの兄として指示することはあったのだ。最高司教より上の立場の人間が、単に世間に出るというだけ。ただそれで、今までは不可能だったことも出来るようになってくる。
それに、アデレードが二人いる、と考えれば。その効果は飛躍的に向上し、有益であると考えられた。
「オマエ、俺の友人なんだからな。そこらへんも考えろよ?」
「ふふ、なるほど。そういう考えも出来ますか」
そう、俺が世間に出れば、友人であるカルディアもまたメリットを得るだろう。
だが彼は、そんなことを考えていなかったようで。気付いて、ただ笑っていた。
4
反攻作戦は年明けに決行されると決定された。アマデウスからの電子メールを読みながら、律儀な男だと感心する。その間に、自分は神皇になる。今も着々と準備が進められ、年末かあるいは新年には神皇誕生となるだろう。
この反攻作戦が、世界の命運を握る。もしアンドロメダが勝利し、前線を押し込むようになれば、そのまま開戦時の状態へと復帰し、戦争の帰趨はわからなくなる。ヴァルゴが勝てば、今度こそ戦争は、アンドロメダの壊滅という結末で終わるだろう。
どちらが正しいのか、など選べない。戦争が早く終わるなら、きっと人々はそれを望む。だが、この終わり方は果たして――――願望と等しい結果を生み出すのだろうか。
理想は、アンドロメダもヴァルゴも、戦前の状態に戻り、かつ交流が出来ること。だがそれは、理想だ。時間を戻すことは誰にも、そう、神にさえ許されない。だから我々は、願いにさえ妥協をして生きていかなければならなかった。
気持ちは、アンドロメダにあった。私情を挟むのは、きっと失格。それでも友人を、そして守りたい世界を願って何が悪いのか。傲慢と呼ばれようとも、今回の作戦に絡むことを決めた。それは、すでに。勝たせるために様々な工作をしてきた過去の上に。
「もし……自分が自分ではなくて、他の誰かだとしたら。そう考えたこと、オフェリアにはありますか?」
夜、執務室の窓から夜景を眺めていると、ソファに座り紅茶をすするカルディアの声が聞こえた。背後を向き、夜景を背にして彼へと向き直る。その質問は、ナンセンスだ。人は誰しも、自分以外を夢想する。それは理想というカタチで。こうなりたい、と願う自分を夢見るだろう。
「私は、思います。もし私がこのリューヴに住まう別の誰かだったら。きっと大統領はもっとずっと年をとった政治家で、可もなく不可もなく政治をして。その方が、この両手が預かる人のためには良いのではないか、などとね」
カルディアの問いは、想像していたのとは少し違っていた。リューヴに滞在してすでに三日。その間にアマデウスは軍権を握り、今のカルディアの表情は少しだけ晴れやかなものになっていた。それでも、顔色が完全に晴れることはないようだ。
「煮え切らない態度と優柔不断で前線の兵士を殺したことを言っているのか?それならば論外だ。リューヴはすでに出兵を拒んでいるし、オマエが就任した頃には戦争が熟していた」
休戦前の話だ。リューヴはその戦力を根こそぎ失って、代わりに前線に近い太陽系同盟が立った。それ以後、リューヴが直接部隊を前線に投入するということはしていない。今回の反攻作戦は、休戦後から溜めに溜めた総力戦。これが失敗すれば、今度こそ終わるという代物だった。
「だがもし、リューヴが派兵を決めていたらと考えると。ここまで戦争は長期化しなかったのかもしれない。あるいは負けてしまってもう平和なのかもしれない。答えは私にはわかりませんが、そんな未来を、望むことがあります」
彼に会うと、どうしても、彼の弱音を聞くことが多かった。普段は飾りの大統領として悩むことも多いのだ。だから、今だけは。そう思って黙って聞き、時に慰めることもしていた。だが今回ばかりは、かける言葉が容易に出なかった。
もしも、自分が。他の誰かだったら。
きっと、自分は。何の迷いもなく、この戦争に身を投じていた。
「これは、責務だ。与えられた、義務だ。俺はフォーレとして生まれ、オマエは大統領に任ぜられた。それは多分、与えられたモノだ。だから、逃げることは許されない。俺は俺の責務を果たそう。カルディア、オマエも。自分の運命を貫くしかない。それから逃げ、目を背けるのはきっと。自分自身を裏切ること」
神に与えられたわけでも、誰かに与えられたわけでもない。運命は、自分自身が持つ。自分から生まれた責務。いつかは、その義務を果たすことが確約されている。
「もし、オマエがオマエじゃなかったら。俺は友を一人、失うんだ。それは、違うだろ?人は過去の積み重ね。今まで歩んできた道が、これから歩む道を作る。急にレールが入れ替わることなど無い」
オフェリア・フォーレはそうやって、今を作った。過去というモノが、自分を作り、明日の自分を決める。それを否定するのは、自分自身、そして今までの全てを拒絶することだ。
「貴方は、自信に満ちた、強い人ですよ。だから人は、貴方に憧れるんでしょうね」
「違うな。そうなったのも、俺が俺であるからだ」
オペラ・レーヴェは。その道を入れ替えようとしている。だから、きっと自分は憎むのだ。あの人間を容認出来ない。その全てを否定する。取るに足りない人物だとしても、全力で、自分の全てをぶつけて叩き潰さなければならない。
アデレードを守る。思うとおりに進まない妹でも、否、妹だからこそ、守らなければならない。彼女は彼女で、自由に道を行けばいい。それを邪魔する者は、容赦なく、潰すしかない。
「――――オフェリア。私を、助けてくれますか?支えてくれませんか?私はきっと、弱い。だから、頼りたいんです」
「勿論だ」
ただ一言。そう力強く頷いて、弱々しい友の右手を強く、握った。
他の言葉も、態度も不要。カルディアはきっとわかる。だからこそ何も言わず、ただ手を握った。
大統領邸宅をアハトと二人で後にする。ルテティアに戻り、神皇就任の下準備を済ませなければならない。反攻作戦が決定した以上、あまり時間の余裕は無いのだ。カルディアに別れを告げ、来た時と同じ道を帰っていく。
「大将。やっぱり、アンドロメダはダメだと思ってません?」
本音、だった。
アンドロメダは、きっと負ける。このまま正面からぶつかれば、おそらく、負ける。
だからこそカルディアを外させた。さして顔も知らないアマデウスが戦場で死ぬなり、失脚するなりしても、正直、関係がなかった。ただカルディアさえ影響が及ばなければ、それでいいと思っていた。だが、アマデウス以外、今回の作戦を決行出来る人物もいないのが事実だ。
だが、本音はきっと、前者。後者は建前に過ぎなかった。
「お膳立てが必要だ。その話も、カルディアとはした」
「ほ。何です、それ?」
正規軍と正規軍の衝突で、数ならアンドロメダ、質ならヴァルゴだ。ただ、この構図で勝利を収めたことは一度たりとも無かった。勝つには何が必要なのか。そう考えた時、破砕されるカメリアだけが浮かび上がった。
「俺は、正直な話、勝利するのは難しいと思っている。だとすれば、早々に戦場を解消し、双方軍を退かせることだ」
一度、苛烈な衝突をする。それで両方が同時に撤退出来るような態勢にする。後は指揮官同士が歩み寄り、共に引き下がればいい。一時だけ、互角に。それも激しくぶつかる。戦死者の数も相当なものになるだろう。だが、そうでなくては意味がない。
これ以上の戦闘は無意味。そうフルジア側に思わせたいのだ。そしてフルジアが撤退すれば、戦場はアンドロメダのものになる。何と言っても、侵略されているのだ。彼らが下がれば、そこはアンドロメダの領土になる。
アマデウスなら、先に膝を折り、休戦とすることも出来るかもしれない。一時だけでいい。互角に過激にぶつかれば、その道も見えてくる。
「作戦の第一段階は、双方が激しくぶつかること。第二に膠着となること。そして第三に調停のテーブルにつくこと。これらに共通する必要な事柄は、情報操作だ」
敵と敵なのだから、黙っていても勝手に衝突はする。その時のダメージを出来るだけ増加させ、互角の勝負に持ち込む。これは前段階だ。今のままで勝てないなら、さらに量を増やすまで。となると、太陽系同盟も作戦に引き込むべきである。
次いで、膠着状態へと導かなければならない。双方が攻めあぐねる、という形を作る。第二次の作戦において双方の攻め手を潰すことが必要である。そこまで上手く事を進められれば、一押しで調停となれるだろう。そこに必要なのが、おそらく、自分の存在だ。
両陣営から同等に地位を認められた人物。アンドロメダはフルジア女王を認められない。ヴァルゴはリューヴ大統領を認めない。ならば、双方に認められるフィルウィリミテアの神皇ならば。もちろん、それは調停が失敗した最後の手段。
祖父――――オベロンの取った手段と同じ方法を。この身で、実践してみせる。
5
集まったのは、フィア、フュンフ、ズィーベン、アハト、ノイン。クンスト・ヴェルクのエージェントの半数以上をカルディアに言って用意してもらった。莫大な金額が、今頃ヴェルクには支払われているだろう。
ルテティアにある自宅に集結させる。それぞれに部屋を用意させ、これから作戦決行まで、彼らにはこの邸宅にいてもらう。その間、他の仕事はさせずに、純粋に作戦へ集中してもらうためだ。
「オフェリア様、お呼びでしょうか」
夜、おおよその流れを脳内でまとめたところで、居間にフィアだけを呼びつけた。この中で最も序列が高く、指揮も可能なのは彼女だけしかいないためだ。彼女に必要なことを伝えれば、後は勝手に判断をし、遂行してくれる。
セミロングの金髪の髪を揺らしながら、フィアが目の前まで歩いてくる。相変わらず、この女は好きになれなかった。どこか陰鬱で、暗い印象を相手に与える。伏せられた視線は意志の無さを感じさせ、調教された奴隷のようですらある。
使われる側の人間として、彼女は最高だ。だから不快感を消して、純粋に彼女を使う。
「そうですか。最後、もし大勢が決せられなければ、オフェリア様が」
流れを説明し、最後まで言い終えたところでフィアが一言、そう述べた。不満も肯定も感じさせない声音。何の感情も無いのだろう。主従関係としては、これくらい淡白な方がいい。
「――――図に乗らないことです、偽者」
目が、点になる。
今、この奴隷は。俺の前で、俺のことを、何と呼んだのか。
「貴方が何を考えているかは知りませんでしたけど、これではっきりしました。アデレード様とオフェリア様のためにも、その野望は、必ず阻止します」
歯の音が、合わない。体が不自然に、揺れた。震えると言ってもいい。今、この瞬間。この体は全力で、この女の言葉を拒絶していた。彼女は臆することもなく、見下した視線でソファに座った王様を見つめている。その髪が――――また揺れた。
そこに。見たことのある。いつも見ている。女の顔があった。
「貴様――――アリア、ここで何をして、いや、何を言っている」
アリア・ローゼンミュラー。妹のアデレードと姿を消したはずの歌姫が、そこに。はらりと落ちた髪を気にすることもせず、視線さえ変えずに、再び口を開く。
「私はフォーレに仕える人間です。オフェリア様とアデレード様を見守り、そして幸せになってもらうためにいます。……貴方は、オフェリア様ではないですね」
息が、止まった。
俺は俺を見失い、俺に仕えるはずの人間が、俺を否定する全てを、言った。
視線が交錯する。時間は、怠惰に、かつ無情に流れるのみで。
「オフェリアは俺だ。偽りだとしても、他の誰でも無い、この俺が歩んできた道こそ、オフェリアだ」
「オフェリアは、死んだ。罪を重ね、もう戻ることはありません。未来に行くは、あの方のみです」
それは、宣戦布告。
オフェリアがオフェリアに行う、最後通牒だった。
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