Mirage
Tunnel-5
腹部から夥(オビタダ)しい血を流す煌貴を背負い、走った。
歩叶は即座に奈美をぶっ飛ばし、それで皆の魔法も解けた。無言で走り出す歩叶を追うと、死体のような煌貴が横たわっていた。
煌貴と奈美は同じ、結界というスキルを使う。奈美の結界は周囲を「合理化」させるものらしく、言葉、行動、思考などの全てを発動時に定めたものに改竄する。
あの違和感は、そういう類のものだった。「普段と同じ」と設定しておくのなら、何を喋ってもいつも通りと感じる、はずだった。
煌貴の結界は全く違う。行動を空間に固定させてしまうらしい。強制、という暗示に近いと柚葉は説明してくれたが、止まったまま動かないアマイという人を見た方が説得力はあった。
柚葉に言わせると、冬真は結界の影響を全く受けないのだとか。境界(ディバイド)というパーソナル・スキルの素質があるらしく、全てを分離してしまう。結界と自身に境界を引き、分離するということだ。
「歩叶ちゃん、視える?」
墓地。死体置場の他に、天上世界へ通じるとすればここしかなかった。
意味のわからない問いかけに、歩叶は静かに頷いた。
帰る。僕らは、元の世界に帰る。それはどこか寂しく、懐かしいもの。
目を細め、鋭い視線で虚空を睨む歩叶。
苦しいのかな、と。場違いにそんなことを思っていた。
「また会えるのかなぁ」
気付くと、体がふわふわと浮いていた。どうやらこれが、柚葉のスキルらしい。
呟くキリアの顔も、小さく。歩叶の表情はやはり、苦しそうに思える。
多分、もう会えないだろう。奈美は、歩叶とアマイで何とかする。騎士なんてものは、この世界では異界からの来訪者に敵対する者の定義だった。だって、逆さまだから。
世界から消える瞬間まで、キリアの笑みと歩叶の苦悶は消えなかった。
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