Mirage
Return to one's everyday life -Another Story-
千客万来。奇人どもは何処へ去り、熱烈な視線を浴びせてくる二名が部屋に残った。
「んだよ、見んなよ」
君塚冬真はまだいい。ただ、血族と言われる矢上藍だけが、堪(タマ)らない。
「男の子」
「そうだよ。悪いかよ。どうせ当主になれない男だよ」
「煌貴、語尾が『よ』ばっかりになってる」
おっといけない。どうやら苛々しているようだよ。
こうなれば、冬真を味方につけるしかない。沈黙と視線の戦争は、膠着状態を良しとしないからだ。
「そういや煌貴。柚葉さんに何か言われたの?」
くそ、冬真め。痛いところばかり突いてくる。
「所帯を持てと言われた。大方、夜神と平紗の子が欲しいんだろ。残念ながら、交雑種(ハイブリッド)は無理だろうけど」
「え、何で?」
「いや、だって俺か歩叶なわけだろ。自分で自分を妊娠はさせれないと思うぞ」
それは気持ちが悪い。物理的には不可能じゃないか。
「じゃあ、今の煌貴は夜神?それとも平紗?」
「どっちだろうな。朝里煌貴の体は死んじまってるから、体は平紗じゃないかな」
魂が入れ替わっただけのこと。それも、長続きはしない。
「なら、融合させれるんじゃないか。夜神の血はこっちなら途絶えてないでしょ」
どうも、君塚冬真という男は鈍いらしい。
いや、鈍いというには弊害がある。この男の直感というのは、時たま優れており、普段あるべき姿、記憶にある存在の肖像と現実のズレを認識する能力に長けている。
境界者ならではの眼だった。時間という境界を見据え、今ある姿と以前の姿の違いに気付く。それは、違和。だから、夜神煌貴という存在と、朝里煌貴という存在は、君塚冬真の中では別人だろう。
尤(モット)も。彼自身も変貌を遂げているのだが。
「こら、冬真。レディーの前でなんつー話を」
生き残り、なおかつ具現している夜神の血を見る。相変わらず無表情で、鏡を見ているようで嫌だ。
矢上藍。超がつくほど一流の暗殺者。その姿は、どこか夜神色にも似ている。
中性的で、無表情で、冷たい声音。夜神色は相殺という現象の上に成立しているが、夜神藍は心のどこかに、未だ葛藤を残したままだろう。
「うし。冬真、ちょっと留守番しててくれ」
ベアトリクス・ガーターが目覚めたとしても、冬真なら宥(ナダ)められる。
多分。
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