Mirage

Return to one's everyday life -Another Story-

我が師に連れられて、敵の本拠に乗り込む。
都心に程近い立地条件。何の変哲も無いマンションの三階。備え付けられた非常階段から、螺旋状に天空を目指して俯瞰(フカン)に近付く。
明朝、僕らは消え去った矢上藍とヒース・アルヴェンを追うため、こうして物々しい態度で矢上彩のマンションへ進撃を開始した。
先行するDを見る。言葉は無い。視線が、ちょっと笑っただけだ。
「鉄砲なんか持ってヒトん家来るなよ」
笑った目のまま、Dの姿が玄関ドアに消える。鼻を痛打しただろうDは悶絶して地面に倒れたまま、侵入者を迎える朝里煌貴に踏みつけられる。
「・・・なにボサっと突っ立ってるんだよ。人様の迷惑になる前に早く入れって」
「あ、うん」
促され、見慣れた玄関に靴を揃える。矢上彩の家だろうが、今は煌貴が住んでいるようだ。
部屋の様相はいつもと変わらない。白い調度に必要最低限の生活品。
目を引くのは、部屋の中央に積み重ねられた二人の体。気を失っている二人は、朝から姿を消した二人と変わらない。
部屋にはさらに、見知らぬ女性が立っている。まるでドレスのような衣服に身を包んだ女性は、不思議なまでの威圧感を持っている。ただそれだけで、異端者だと気付いた。
「えっと、どちら様?」
「俺に訊くな。浅川大先生のデータベースに照会しろよ」
が、答えを導くのは鼻を押さえるフランス人だった。あからさまに嫌な顔をして、Dは吐き捨てるように、言う。
「ガーター。何の用事だ」
「そのナマエ、もう捨てたのよ、チェスター・ヘラルド」

表裏。
世界にはオモテとウラがある。
そのウラ、なんて曖昧なモノは、大抵のヒトは気付かず、人生の旅路を終える。
要は道だ。それも、陽の光も当たらないような路地裏。抜け道には違いないが、知らず、迷い込んでいるのかもしれない。
例えば時計塔に、例えば寺院に、そして紋章院に。
「何でココにいるのかと訊いておる」
珍しく苛々(イライラ)としながら、Dは声を荒げた。目の前の女性は妖しく微笑んだ後、鼻に指をやった。
「鼻血出てるわよ、貴方」
「うるさい」
妙に生々しい光景だった。ガーター・アームズは右手に誰のかわからない布きれを持ち、せこせこと鼻血を拭(ヌグ)っている。
あれはきっと、彩の服だろう。
「あの、そろそろ説明してくれると助かるんですけど、ガーター・キング・オブ・アームズ」
「ちょっと待ってね、ディバイダー。旦那の鼻血拭いたら聞いてあげるわ」
だ、んな。
旦那。つまりは、夫。

驚いた表情でDを見ると、鼻を拭かせたままで頷いていた。
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