Mirage
Return to one's everyday life -Another Story-
「――――消灯したというのに、貴女は何をしているのです?」
そそくさと部屋を出て、気配を忍ばせて浅川医院から抜け出す女性に、ヒース・アルヴェンは声をかけてみた。
すでに夜の帳(トバリ)が降りた街。自分の行動開始時間に合わせてくれるあたり、非常に好意的な人間だ。
「・・・別に」
「先程も姿を見せなかったようですし、かと言ってアサカワと不仲というわけでもない、と」
言葉を切る。目の前に立ち、闇に身を委ねた少女は邪魔立てする存在を消す覚悟でいるらしい。
闇に隠れ、夜に踊る東北の暗殺者。職業柄、自然と気配が隠れて夜に紛れているのは感心すべき事項だろう。どうやら、自分よりもよっぽど上手く夜を扱える。
さすがは、夜の神というべきか。
「一人でヤガミシキの拠点に忍ぼうとは利巧ではありませんね。下手をすれば殺されてしまいますよ?」
せっかく紋章院の人間を人質にとったのだ。ここで邪魔を入れるのは無粋というもの。
「まぁ・・・お気持ちはわかりますが。ヤガミの一族で覚醒しているのは彼女、おっと失礼、彼だけですから。妙な親近感が湧くというのも頷けましょう」
「妙、というのが気に入らない」
「失礼。なら、兄のように思えるのでしょうね」
そういう言い回しがヤガミアイには気に食わないのかもしれないと、苦笑混じりに思った。
女性であれば、少しでも若く見積もった方がいいのかな、とか考えただけだ。ヤガミシキは16歳、ヤガミアイは19歳。おや、ヤガミコーキはキミツカと同じ年齢だから、21歳か。
それなら、あながち外れてもいないのではないか。
「其処を退くの、退かないの?」
「これは、手厳しいですね。退きたいというのが人情でしょうが、そうもいかない複雑な事情を察していただきたい」
両指を絡めたまま、先方の態度を窺う。
ヤガミアイは、嫌味をふんだんに盛り合わせた溜息を吐き出し、これ見よがしに微笑を見せた。納得はいかないが理解はしよう、とのことだろう。
「他日を期するなら、私が随行しましょうか」
「そうね。お願いします」
無論、アサカワの策略に巻き込まれないようにする。彼らは一足先に床についたことから、襲撃は明朝とも考えられた。
何にせよ、急がなければならない理由は数え切れない。焦る必要は無いにしろ、逸ってしまうのは理屈に合う。それならば、アサカワより先にヤガミコーキに会うのは間違いではなかろう。
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