Mirage

Return to one's everyday life -Another Story-

肩で風を切って退室する色を見つめ、いやはや、まだまだ朝里煌貴も子供だと自覚する。
階下ではそんな子供が乱暴にドアを開閉する音が響き、おそらく、君塚冬真が心配していることだろう。
会議室のドアを乱雑に扱われる前に、わたしは下に降りることにする。
案の定、困惑した表情の君塚冬真と、苦笑する吸血鬼の姿があった。
無論、無茶なことを言っているのは承知だ。しかし、是が否にでも夜神と平紗の混血児を遺しておきたいと思うのは自然なことであろう。
矢上彩を妊婦にして戦闘力を低下させる無理を通すなら、今の内、誰かに産み付けてやった方が得だと思うのだ。
と。朝里煌貴が打倒した女性がいなくなっていることに気がついた。
「『ここに置いておくと危険だー』とか言って攫(サラ)ってきましたよ」
「ふ、さすがは夜神煌貴。良い勘をしている」
連れ去った女性がどのような人物かは知らない。知らないが、予想は出来る。
この時期に寺社を本拠として現れる金髪の外人など、一人しか思い浮かばないからだ。
「寺院協会に属している寺社ではなく、それこそ、一般の寺社に厄介になっていた。寺院協会と繋がりの深い連中で、なおかつスロウと接触せずに隠密裏に行動をとる人間など限られている」
協会の息がかかった寺院にいれば、スロウが異変を察知する。スロウに漏れることなく、しかもこの街に潜伏するには、一般の寺社を使うしかないだろう。
「知りたいだろうが、わたしにもわからない。秘密結社と言えど、あそこまで隠匿(イントク)するのは秘密どころか隠密だよ。存在しているのにも関わらず、存在感が無い。公言しているのに、言葉は全て虚空に消える。結界のようなものだ」
「すると、異端者なんですか?」
「ウエストミンスターのようなものさ。あの夜神煌貴と娶(メト)わせるには民間人では無理だろう。最上の手段はすでに不可能であるし、大英帝国の紋章官なら何の問題もない。そら、明日は早いぞ。皆の衆、さっさと寝ろ」
強引に診療所の照明を落とす。そうでもしないと、人工透析中の西川彼方まで目覚めてしまう。
まだ吸血鬼になりたての西川彼方は血液循環に異変が生じている。腎臓は正常に活動しているものの、やはり何らかの疾病が起きるらしい。ヒースに言わせれば、リヴィエルロットに血を吸われてこの程度なら幸運以上の何物でもないと一笑に付すだろう。

こうなってしまった以上、あの女もいると仮定した方がいいな。
Copyright 2005 STELA All rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-