Mirage

Reincarnation-5

「むははははっ、コレがアサカワの過去かッ」
「小さい頃はよく見かけたんだけどなぁ。へぇ、今はそんなコトになってんのかい」
浅川医院で腹を抱えて笑い合う相棒と仇敵。師のプライベートを無視して過去を探る二人を止めようもなく、弟子はソファでお茶をすするしかなかった。
めでたく窮地を脱し、鏡面世界へ進入した冬真らは、ひとまず空き家になっている浅川医院に居を構えた。
すぐさまとんぼ返りする気にもなれず、二、三日逗留(トウリュウ)しようと思い立ったからだ。
「早く帰れよ。あんた、こっちに住んでるだろ」
「固いコト言うなよ。歩叶の侍医の過去なんか、めっちゃ気になるじゃないか」
その言い草も気に入らない。平紗歩叶はオマエのモノなんかじゃないだろ。
「彼女は煌貴のだぞ」
「あー、そう。だから?」
投げやりな返答が壁越しに聞こえてくる。Dはどう思っているかどうか知らないが、少なくとも平紗歩叶は朝里煌貴とセットだ。それは今でも、多分、変わっていないんじゃないかと思う。
「だから、おまえの出る幕なんかじゃないってこと」
「そう言われてもなぁ。フィアンセなんだから出ないワケにもいかんじゃないか」
・・・ちょっと、待て。今コイツ、なんつった?
「婚約。天井の家と平紗の家。騎士の家っつーの?アレ、遺伝だから生まれた時からオレの結婚相手って決まってるらしいよ」
「な」
思わず絶句。言葉が続かない。
冷静に考えればきっとわかることだが、理解は出来ても納得出来ない。
「んなこと言ったって、相手の気持ちってあるじゃないか」
「許婚なんてそんなもんだろう?」
「だとしても、きっと彼女は納得しないよ」
「納得もクソもないだろう?」
ぐさっ、ぐさっと論破されて、ついに沈黙。天井神由は何も外れたことを言っていない。正論しかない。だからこそ、否定も出来ない。
「でも、きっと結婚は無い。奈美がいるからな。でも後継者ってことが絡んでくるから、元よりオレに自由はないな。愛人とか側室、妾になるんじゃないか」
死んでしまえ、くそ。
「センパイ、元気なのか?」
「ああ、めっちゃ元気だよ」
天井神由は悪人ではない。己が使命に忠実なだけの、少しだけ自意識過剰気味で、それでも容姿に文句はつけられないような美男子。もし、同じ世界で、同じ町で、同じ学校などに通っていれば。僕と君はどうなっていただろう。
だから、上山奈美が惚れ込む理由も不思議はない。朝里煌貴、という一点さえ無ければ、きっと僕も。
「奈美は天上世界のことを話さない。陶酔するかのごとく、自身のスキルに酔っている。ここでなら特別でいられる。そんな心境なんだろうね。だから、逆に天上世界が気になった」
「そうか、それで来たってことか。で、感想は?」
「まぁ、よくはわからない。不思議だった、かな。皆が同じコトをしているんだから」
あながち、的外れではないだろう。特別、になるのはごく一部で、およそほとんどの人が歩む人生は大局から見れば変わらない。
一頻り笑ってから、天井は帰っていった。去り際、一言だけの助言を残して。

「上山奈美には気をつけろ。彼女は、若狭陽次を殺害した」


王城。正面からは巨大な門が取り付けられ、西洋の古城がそのままに再現されている。
冬真は腰、銀銃の在り処を一度だけ確認して、ゆっくりと歩を進めた。
平紗も天井も、Dすらいない。呼ばれたのは自分一人だけであり、内容も見当はついている。
若狭陽次は本当に死んでいた。三日間、通りを訊いて回るだけでわかった。若狭陽次はスキルを身につけようとしたが失敗し、露店の八百屋で働き始めていた。
しかし、やがて彼は自分だけのスキルを使うこととなる。キリアの創造能力を利用し機械を組み上げ、裏から流通を始めた。
確かに経済的には裕福になった。だが、この世界で金がそのまま力になるわけではない。現実世界の模倣は、鏡面世界では破滅に繋がるからだ。そして、騎士である上山奈美、かつての恋人に討たれることとなる。
銃でも何でも作れたはずだ。それでも、恋人に殺されたのは何故か。
全ての疑惑。何故、彼女が残ったのか。何故、彼女は天井と繋がれたのか。

――――神邪馬(カミヤマ)。夜神と同じ祓鬼の一族だったなんて、気付かなかった。

そうして、君塚冬真は自らの知人を「敵」と認識した。
玉座の前。階段の上に立つ神邪馬奈美の姿を視認し、対峙する。
この街の長、国王は姿を見せない。腹心である天井の恋人は平紗歩叶同様、かなりの権限を有していると思えた。
「別に殺そうってワケじゃないんだから。そんなに敵視しなくてもよくない?」
微笑む表情は余裕か。かつての先輩は笑みを残しながら、静かに階段に腰掛けた。
「今のわたしは分離ごときじゃ防げない。その気になればすぐに殺せるんだから」
レンに言われたこと。自らのパラメーターをのこのこと喋るつもりはない。
夜神や新堂薫と違い、神邪馬は人間だ。銀銃では効果的な痛打を与えることは難しい。
「陽次のことで怒ってるなら筋違いよ」
「知ってる。それくらい、わかりますよ」
直立したまま、冬真は動かない。相手を観察し、常に動向を探る。銃が効かぬなら、切り裂くまでだ。
「・・・へぇ。冬真クンも外れちゃったんだ」
意味深に、神邪馬はクスリと笑ってから、指を向けて告げる。
「どうせ現実社会に復帰できないってクチでしょ。正義の味方でも気取って誰かを助けてるのかな?」
だから、その言葉だけが許せない。
自分たちは正義の味方か。鬼と戦い、悪魔を祓うことが正義の味方なのか。

違う。僕らは、悪役(ヒール)だ。

「話はそれだけですか」
背を向け、王城を去ろうとする。これ以上、彼女と何を喋っても無駄だ。もし、彼女が本当に外れているのなら、天井が殺す。
「さぁ。ちょっと昔を懐かしんで話したかったのかもね」

「貴女は過去を捨てた人だ。僕らとは――――違う」

それが最後通告。
完膚なきまでに関係を破壊して、完全に決別した。
怒りを買おうが、憎まれようが、どうでもよかった。
これ以上この世界にいる意味はない。もし、神邪馬奈美が戻るのであれば、容赦なく殺すだけ。
二度と会わぬ最後の敵を、最後まで見ぬまま冬真は王城を出た。



――――Reincarnation(了)

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