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(聖魔決戦/2) - Geschick -
道は途切れ、戦の終焉を迎えたかに思えた。敵船が兵を収容し、再び威勢を取り戻す。指揮者は変わっていた。少年王と黒の貴公子は姿を消し、代わりに、黒翼を持つ麗しい青年が立つ。
少年王が持つ能力は、結界。夜神色の
恐怖、平紗歩叶の
楽園を超え、新堂薫の
神域に匹敵するほどの結界能力、
万魔殿。
太陽王とまで称されるかの王は、その実、悪魔の軍勢を率いる
魔王であるということだろう。
理屈は、正しい。ルシフェルとは宵の明星。光明を意味する最高の天使の名。だが、楽園を追放された彼は、悪魔に身を落とし、楽園への叛逆の徒となる。
――――つまりは。あの少年王は、天上世界へ背く者、天使と対を成す魔なる王か。
「アレは、メフィストフェレス。かの騎士でさえ、パンデモニウムの一人とは」
絶対なる不死者。打倒し得ない悪魔。故に最強。黒き紳士は軍勢を率い、再度ティルスへと侵攻を開始する。
ニネヴェの箱舟は、軍事的なもの。舳先に杭を打ちつけてあり、突撃による攻撃を可能とした
戦車だ。あの戦車戦法が、ニネヴェにとっての最大の、武器。その数は未だ三十近く残存しており、城壁に激突し、破るだろう。
城門。固く閉ざした門に、戦車が突き刺さる。激しい振動。次から次と突撃してくる敵戦車。空飛ぶ黒い悪魔は、先頭に立ってついに、城門を破砕する一撃を見舞った。
「――――イカレル悪竜、その罪に喰われろ」
不意に轟音。戦場を揺るがす爆音と閃光。小さく悲鳴を上げ、アヴィヨンは身をひそめた。聞き覚えのある声だ。無論、それは我々の嘱望する英雄のモノとしか思えない。
戦車が爆散する。あの音。少年王を暗殺せんとした時の、音。二度、三度と続けて響き、メフィストフェレスは城門から追い出された。怒れる悪竜は、憤怒の表情で消え行く同志たちを見送り、そして、こちらに目を向けた。
視線の先には、英雄の姿。長大な
対物銃を片手に、斜に構えた黒い騎士の姿。
「待ちわびたぜ師匠!アンタがそう簡単にくたばるとは思えねェからさ」
「そりゃどうも。来未とベアトリーセはどうした?」
夜神色は突入しようとするメフィストフェレスに攻撃を加えつつ、現状を把握しようと情報を求めてくる。平紗来未も王女も、通商路崩壊と共に少年王の闇へと消えていったのだ。パンデモニウムに飲まれた二人。早く、助け出さなければ。
「まいったな。悪魔中の悪魔。
魔王と同一である
悪竜か。
館の王とは比べるまでもない、ってな」
言うなり、色は落ちていた城門の欠片を手にする。破片のような、長い鉄板だ。銃を捨て、黒鞘の剣に手を置き、鉄板を空へと投げる。
「アビー、リュックと二人で戦車を押さえろ。なに、統率者がいなけりゃオマエの敵じゃない」
夜神色は空に、板を大地と置き換えて、空を切り裂くが如く飛翔を始める。
メフィストフェレスの眼前へ飛び出し、攻勢を開始する。こちらは指示されたように、敵戦車を撃破することにしよう。
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波乗りの要領で空を駆ける。飛翔のレベルはさほどでもないが、浮かせるモノが軽ければ自然と速度も増せるだろう。
アーシュとベアトリーセを救出するには、目の前のアンラ・マンユを倒さなければならない。時間など残されていない。即座に殺し、突入しなくては。
「憤怒で我を忘れるか。すでにメフィストフェレスの姿ではないな」
七つの大罪。憤怒を司るのが、サタンことアンラ・マンユである。アーリマンとも称されるペルシアの悪魔。彼は悪の化身として、善の化身であるスプンタ・マンユと戦う運命を義務付けられている。
神に叛逆する者。その代表でもあるアンラ・マンユは、物質を否定する。神により生み出された物質という存在を、消す役目を持つ。
破壊のスキル。天井神由を超える能力者。触れたモノを粉砕する一撃は、文字通り、破壊行動の最たるものである。
故に、触れられない。敵の攻撃を受けることなど不可能。こうして回避行動を続けるしか、守る術は無いのだ。
勝利する手立てはある。黒剣を抜けば、勝てるだろう。だが使っていいものか。ペナルティがある以上、そう易々とは使えない。だが、まだ一度目。早々と戦闘を終わらせ、来未を助け出すには、手段を選ぶことなど出来ない――――!
腰に佩いた剣。すでに、手はかけている。後は抜くだけ。何の躊躇いもなく、何の術式もなく、色は、ただ、鞘から黒い刀身を抜き放った。
「――――!!!」
「悪いな、オマエを殺すのが天使じゃなくて」
禍々しい剣気が肉体を覆う。目に見えるまでの、力。色は腰を落とし、さらに加速した。アンラ・マンユの豪腕が頭上をかすめる。さらに、加速。疾走する黒い影が、敵の懐にまで入る。
そのまま、切り上げる。黒い一閃がアンラ・マンユを引き裂き、抜けた。ずきり、と。剣を持った右腕が痛む。使用するだけでも、肉体が耐え切れないのか。
即座に剣を納め、封じる。空を覆う黒い影は、霧散した。後は、パンデモニウムに突入するだけである。
アヴィヨンたちが撤退しようとする敵の船に追撃を加える。ティルスの戦闘は、すでに終焉を迎えている。後は、任せても問題は無いだろう。思って、色は地下目掛けて飛翔を始める。
悪竜でさえも一撃で仕留める力。それは確かに、己さえ恐怖してしまうモノだ。
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(聖魔決戦/3) - Geschick -
目を閉じ、しばし、柄の感触に没頭する。背中を任せた聖女は、すでにいない。彼女には、この先に進んでもらうことにしている。独り、漆黒の中で目を閉じ、夢想する姿は闇に抗う光に似ていた。
前には、敵の姿がある。本来なら、聖女と共闘すべき敵である。バアル・ベルゼビュート。黒い貴公子。その実力は、アンラ・マンユであるサタンを超えるものとされる。天上と呼ばれる現実世界で生きる者なら、
悪魔の力を超えると言われれば恐怖せざるを得ない。
だが、しかし。ベアトリクスはどうしても、彼女をここに残したくはなかったのだ。彼女には、夜神色の代わりに少年王を打破してもらわねばならない。魔を祓うのは聖。その
理に基づけば、聖女の存在は非常に力強いものだ。そして、もうひとつの理由は、単なる彼女の心情に過ぎない。
「……なんと、醜悪な姿か。貴様の前では、吐瀉を禁じ得ない」
そう、敵は
蝿の王。汚物、死者、そんな醜く直視に耐えられぬモノの集合体。その姿はおぞましく、世の醜悪全てを結集させたものだ。悪臭が鼻につく。目を逸らさずにはいられない。決して正視出来ない姿を前に、足はすくみ、身は震えるばかり。
サタンが憤怒を代表するなら、ベルゼビュートは大食を意味する。かつては館の王として気高い天使だった男も、楽園を追放され地下に堕ち、姿を変えた。これと聖女を対峙させるなど、出来るはずがないのだ。敵はまだ残っている。せめて、この悪魔は。自分が祓うものだろう。
巨大で醜い魔王。その下半身はまさしく巨大な蝿。小さな足が蠢き、何かを潰す不快な音が耳に残った。腕からは無数の触手らしき手が生え、醜く動いている。
ずずず、と前に動いてくる。その度に、足元にある蝿や蛆が潰れる。思わず、叫びたくなる。接近など出来るものか。アレに近付けば、おそらく精神が保てない。
だが、近付く必要など、無い。この身は魔道士。紋章の加護を受け、神秘によって敵を打ち砕く
紅蓮の紋章王。
「
Start up the Arms」
握った柄に、魔力を集中させる。術式、起動。淡く、赤く灯る短剣を引き抜く。それは、剣というには短く、幅の広い
装飾剣。先端に向かって狭くなっているものの、刀身は
五本指の名が示す通り、広いものである。
刀身には装飾が施されている。無論、鞘も同様に美しい。威厳を求めるための装飾剣。それは戦闘に向かず、儀礼用のものだということを意味している。
五本の溝が赤く輝く。それは時に弧を描き、見事な紋章陣となっていた。腰に佩いた二振りの短剣のうち、左の剣を抜いて、ベアトリクスは構える。
そして振るった。鋭い姿勢で、勢いよく振られた剣からは赤い刃が放たれる。炎の紋章。解き放たれるは赤い炎刃。遠距離から放った炎刃は、深く、ベルゼビュートの胸を裂く。
ガーター・キング・オブ・アームズ。紋章院における第二位の権力を保持する王の称号。紋章術を駆使し、魔を祓う騎士の名。高貴なる彼女はその実、白兵戦に特化した戦闘員。チェスター・ヘラルドとは違う。一般的な紋章術師でもない。彼女は、その武を持って敵を討つのだ。手に握られるは二つの紋章兵器。
高貴なる理由は
真実の純潔より。攻守に長けた万能の騎士。薔薇騎士団を統率する教会の異端審問官。
詠唱など不要、術式展開でも不足。彼女はあらかじめ、その剣に紋章を刻み、少しの時間さえ短縮する。即座に発動する紋章術は、剣の効果と相成って、絶大なる火力となる――――!
二撃、三撃と連続して振るわれる
左の紋章兵器。その紅蓮はやがて蝿の王さえ包み込み、焼き尽くす。
焔に焦がれるベルゼビュートから、触手の腕が伸びる。数え切れない手。炎の壁から襲い来る幾百もの触手。絡められれば、終わる。咄嗟に、ベアトリクスは左手で右の装飾剣を抜いた。
弾く。否、流す。左に持つ紋章兵器は、刃の無い装飾剣。
櫛状の峰を持つ短剣は、敵の武器を破壊する反撃用防具。
武器砕きとして知られる特殊な短剣。絡む触手を受け止めながら、右の装飾剣で焼き切る。
攻守に優れた騎士ならば、守りも当然、磐石である。騎士とは守り手。弱者を守らんとする騎士道を模範とし、規律正しく戦場に生きる者の称号なり。だとすれば、ベアトリクスほどの者が守りに欠けるなどということは、まず有り得ない。
「くどい。遺す思念、あるならば罪の炎に焼かれ、浄化されよ」
触手を切り払い、燃え盛る火炎に向けて強力な一撃を加える。炎は猛り、異臭と共に魔の消失を感じさせる。
「人とは喰う者。他の欲望を喰い、他の願望を喰い、常、飢え続ける醜悪そのもの」
言葉が聞こえる。炎の中、浄化の焔さえ喰いながら、大食の王は悠然と、未だ斃れず。
「飢える母は子を喰らい、飢える父は敵を喰らう。人が人を喰らう。常、飢え続ける姿は腐敗そのもの」
腐る体を引き摺りながら、腐敗と醜悪を焦がし、熱は温度を加速させる。それでも果てない館の王。姿はたとえ、醜くとも。心は未だ、気高き王のままなのか。
「我が名、ベルゼビュート。其は魂を支配する
蝿の王、也」
飛び散った触手が、肉片が蝿に姿を変える。おぞましく飛ぶその姿、汚物とも思えるその蝿は、触手の数とは比較にならない。千を超える蝿。ハエというものは、汚物にまとわる。故に蝿の王は醜悪かつ汚物であり、悪魔とされる。しかし、それは間違い。ハエは魂を運ぶモノ。死者を喰らい、魂を天上へと運ぶ役目を持つ。
ならば。そのハエを統率する王は、魂さえ支配してしまう。
「矮小なる人間が、穢れたこの身に挑むのか。不死者であり、死者である腐乱死体に勝つのか」
ベルゼビュートは、動かない。巨大な蝿の頭を土台にした姿。気高き誇りを持っていた。しかし、その姿からまるで正反対に位置づけられた者。そう、ならばこそ。彼は天上へ叛逆するのか。その誇りを、守るために。
「挑め、人間。何の力も持たぬ汝が、我を打倒するのであれば挑め」
王は待つ。必勝を期しながら、しかし待つのだ。余裕でも怠慢でもなく、自身を滅ぼせるなら喰らってみせろと待っている。王の威厳、王の誇り。ベアトリクスは刹那、醜悪なる姿を正視し、民を守り続けた王の姿を垣間見た。
「いいでしょう、蝿の王よ。全力を持って、貴殿を倒す。しかと御覧あれ――――」
左右の紋章兵器を合致させる。溝と溝がはまる。それは、一対の剣。二振りを合わせた一本の剣は、有り余る魔力さえ融合させ、巨大な光を放出し始める。
眩い光。イギリス、ウェールズに伝わる伝説の神剣。ケルトの神、ヌァザ・アーケツラーヴの持つ剣。光に魅せられるように、ベルゼビュートが束の間、行動を停止させた。
そのランクは頂点に、数ある武器の中でも最も神秘なる効果を持つ剣。それはかの神剣を超え、黒い魔剣でさえ及ばない。光の剣は敵を刹那に幻惑させ、不敗かつ不回避の特性と運命を持つ。
名を、クラウ・ソラス。
使用すれば
負けることはない光り輝く最強の武器――――!
ベアトリクスが、構える。大きく振りかぶり、肩に背負い、渾身の力で投擲した。飛翔する光の剣。それは王の威厳か、あるいは剣の効果か。避けることなく、ベルゼビュートは去来する勝利の剣を甘んじて受けた。蝿の頭部を破砕し、貫く。勢いは止まらない。体が、宙に浮く。そのまま剣と共にベルゼビュートは空を飛び、結界の果てに突き刺さった。
すでに身動きのとれなくなった王を見る。勝利は無い。不死者は未だ、死なず。だが、敗北も無い。彼は動けず、戦うことなど出来ないのだから。
魔力が無くなった。後は白兵戦しか出来ないだろう。尤も。そんなことはベアトリクスにとって障害ではなかった。何より、後のことは聖女に任せればいいのだ。だが、戦えるのならまだ立とう。思って、剣の柄に手を当てようとした。ああ、そうだ。三本目の剣は、夜神色に託したままだった。
あの人が私の思う通りならば、そう遠くない未来、また出会うことも出来るだろう。
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(聖魔決戦/4) - Geschick -
見るも妖艶な魔女。敵対したのは、そんな女だった。
徒手空拳で立ち尽くす敵は、これ以上進むことを許していない。打破しなければ、少年王まで辿り着けない。だが、今のアーシュ・リーティアには関係が無かった。塞ぐならば、殺す。障害となるもの全てを斬って捨てる。聖女は、公平に、邪魔者全てを断罪するだろう。
「あら、これは麗しい女の子がやって来たものね。よろしければ、」
言葉を遮る一撃。手にした神剣そのままに、疾走を止めずに刺そうとする。敵の姿など彼女は意にも介していない。ただ、排除せんとするだけである。
確かに剣は突き立った。敵の腹部を貫く一撃は勢いさえ余り、背中から細身の刀身が突き出た。
「あらあら。物騒な娘」
「退け」
一撃で足らぬのならば、二撃。即座に引き抜き、もう一度繰り返す。いかに不死者と言えど、腹を貫かれれば多少のダメージになるはずだ。
だと言うのに、敵は微動だにしないどころか、微笑んでいた。あまつさえ、ぐわりと腹部は歪み、貫通した剣の周囲に空洞を作る。そのまま弾き出され、何事も無かったかのように腹部は修復されている。
聖女は、驚きもしない。死なないならばそれでいい。粉々に粉砕し、破片となって散ればいい。
神剣が唸りを上げる。細身の剣が蒼く輝く。魔力を注がれた剣は形状を変更し、刀身を取り巻いていく。青に囲まれた刃。憤怒の聖女に共鳴するかのように、耳鳴りを呼ぶ音波を発する。
神剣セイクリッドティア。フランヴェルジュはフェイスタッドの魔剣、カインはセイクリッドの魔剣。ならば、これはリーティアに伝わる剣。
完成するのを待たずして、鋭い痛みが胸に走る。こつん、と水平に突き出された拳。敵が放った突きは聖女の胸部を捉え、そのまま吹き飛ばした。
「悪い娘。そんなコトしたら、わたし、死んじゃうでしょう?」
「……不死者のクセに。人を侮るのも大概にしてください」
突き飛ばされ、やや冷静さを取り戻す。敵は、悪魔の一人。生半可な攻撃では通用などしない。だからこそ、この神剣を敵に突き立てるだけだ。
立ち上がり、敵を睨む。妖艶に微笑む魔女。ふと、大地が揺れるのが分かった。揺らしているのは自分ではない。では、敵によるものだろう。
――――感付き、アーシュは眼前に広がる光景に絶句した。
敵は、立っている。その下、地面などではない。ゆっくりと、地面が盛り上がる。黒い大地は、常識とはかけ離れたものだ。徐々に敵が高みへ。やがて見上げるほどの高さになった時、全てが判明した。
あれは、波である。津波のような高波に立つ女性。微笑みのまま、死を宣告する悪魔。
「水流に押し潰されなさい。我は水竜、海の
顎に食いちぎられるがいい」
一斉に襲い来る、波。回避も防御も何も無い。ただ飲まれ、食われるだけだ。押し流されて、絶命するか。
彼女の名は、レヴィアタン。嫉妬の罪を司る、嘘つきの海の王。渦を意味する彼女は、確かに不死である。水のように渦巻いた肉体には、どんな攻撃も通用するはずがない。
波に飲まれる。体が浮く。たとえこれが幻惑であろうとしても、息が止まれば人は死ぬだろう。
そして――――激痛が走った。肩。左肩にとんでもない激痛。思わず、耐え切れずに叫ぶ。絶叫が水流に響く。見れば、レヴィアタンが、肩に口付け、牙を立てていた。無我夢中で、暴れる。押し込めるように、思い切り左肩をかち上げる。それで、牙は外れてくれた。
水が流れる。まるで、水死体。神剣を地面に突き立てて、何とか流されることを拒否した。倒れたまま、じゅくじゅくと痛む肩を押さえる。正解である。必死に引こうとしたならば、今頃は食い千切られている。
そして、もう一つ正解がある。ベアトリクスの配慮は、正しい。アーシュ・リーティアなら、レヴィアタンを倒せるのだ。アーシュ以外の人間には倒せないと言ってもいい。
「強情な娘。なら、もう一度流してあげる」
再びレヴィアタンが空へと上昇する。波は高く、高く、津波となって押し寄せるだろう。
「――――貴女、本当に腹の立つ人です。悪いけど、殺させてもらいますから」
彼の口調を真似て、聖女は立ち上がる。本当に申し訳ないのだが、聖女は癇癪持ちなのだ。怒ることがあってもいい。それは、あの人が教えてくれたことでもある。
「Everything is taken. Everything is cured. Everything is klled. Leading all lives, I probably will write the tale.」
神剣を再び覚醒させる。蒼い刀身に輝きが灯る。波が来ようと関係が無い。術式さえ紡げば、後は全て、破壊出来るだろう。故に防御も回避も無く、聖女は真っ直ぐに、敵対したまま詠い始める。
「As for the sword of light I have. I illuminating the road, teach spiral to the people who are perplexed.」
神剣は我が手に。兄とは違う、本来の当主の元へ帰る。輝きは増し、蒼い涙を彩り始める。それは、水の剣なのだろう。刀身の外縁を蒼く染める。耳鳴りが始まる。高音の反響。それはやがて収まり始め、鈴の音に似て奏で始める。
「After all pain and grief. Sacred heart of the heart, ever after.」
蒼い聖剣が展開する。見た目にも美しく、聖女の権威を象徴する聖権に。鈴の音は止まず。迫り来る高波に向けて、アーシュは刀身を向けた。
波に剣が触れる。細動する剣。それは水流全体に伝わり、振動を続ける。振動は熱に。熱せられた波が、聖女の周囲で分解され、蒸発さえ始める。
レヴィアタンの悲鳴が聞こえる。熱せられ、蒸気に囲まれる水竜を追い詰める。
それは、「振動」の剣。フランヴェルジュとは対極にある、蒼い剣。刀身の中を水流が走り、細動させることで振動を対象に伝える兵器。振動は多種多様の効果を持つ。時に波動を作り、衝撃波と化し。時に地震の如く対象を震わせ、破砕する。
水は波。細動は原子を揺らし、熱源となる。
「再生、しない。何故、どうして、パンデモニウムで魔力供給はあるのに――――!」
「残念、ね」
すでに形勢は変わっている。水流を失ったレヴィアタンに、聖剣を突きつける。聖女の魔眼は、世界との繋がりを断つ眼。魔力の供給などさせやしない。
不死者であることは承知。ならば、蒸気と化してしばらく黙っていろ――――
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(聖魔決戦/5) - Geschick -
剣、が見えた。レヴィアタンの追撃も無く、少年王を追おうとした最中、見覚えのある黒衣が横切る。
信じている。まだ、生きている。死ぬはずが無い。けれども、どこかで。諦める気持ちがあったのも確かだろう。だから余計に、その影に惹かれた。聖女は影を追い、いつしか、その背に追いついて――――
「色、色さん――――!」
名を叫ぶ。本当は、一人でもやれるのだ。神剣を持ち、少年王を討ち果たして現代へ帰る。そして神争を止める。それは、一人でも出来る。出来るが、何故か呼び止めた。
背が、振り返る。黒い衣装、精悍な顔立ち。黒鞘の剣を腰に佩いた、鬼の姿。暗殺者。形容のしようは何とでもある。忘れるはずのない、見覚えのある、顔が。
「――――よかった。来未、無事だったか」
夜神、色。見るなり、安堵した表情で近付いてくる。
「うおッ、何だ、俺、何かしたか――――!」
気付けば、泣いていた。涙が流れていた。安堵したのはこちらも同じ。いや、向こうより強いだろう。ああ、本当に、生きていた。そうだ。簡単に死ぬはずなどなかったのだ。
おどけているのか心配しているのか、本気で慌てる姿を見るのは、滑稽だった。泣き笑いという器用な真似が出来ることなど、知らなかった。とにかく、良かったのだ。感情はそれだけを訴えて、思わず座り込んでしまった。
ふと、顔が何かに包まれる。確かな温かみを感じる。その腕に抱かれ、その胸に顔を埋め、今はしばし、安楽の時を。
顎が持ち上げられる。端整な顔が、すぐ傍に。今は何も考えず――――ゆっくりとその唇を合わせた。
――――瞬間、背筋が凍った。
圧倒的な殺意を、背中に感じる。敵だ。それも、今まで出会ったことの無いレベルの強敵。殺意は明確に、こちらに。だが、大丈夫だ。今なら、誰にも負ける気がしないと振り向いて、
「……あれ?」
そんな、間抜けな声を出してしまった。ぐい、と体が押さえつけられる。強く、強く背後から色に抱きしめられる。胸と腰を掴まれ、身動きが取れなくなる。
「来るなよ、英雄。手元が滑って心臓抉り出してしまうかもしれんぞ」
殺意が近付いてくる。それは、怒りに似た殺人衝動。暗闇から黒衣が現れる。黒鞘の剣が音を鳴らす。長い外套がたなびく。鬼神が、そこにいる。
「聞こえないのか、近寄れば殺すと言っているのだが、理解出来るか?」
「殺せばいいだろ。ソイツが握っているのは、俺の命ではなくオマエのだ」
夜神色が来る。冷酷な意志、明確な殺意。紛れもない夜神色そのものだ。
「あは。なら、どうやってもオレは死ぬわけだ。そりゃいい。だったら悔いも無くこの聖女と楽しめるワケだ」
首に、異質な感触がまとわりつく。凄く、嫌な予感がする。それも様々な意味でだ。
アレが本物の夜神色であるなら、背後の夜神色は偽物となる。しかも、本物はお怒りである。普段でさえアレな夜神色が、ぶち切れてしまったのなら、それは世界の崩壊なのではなかろうか?
「し、色さん。あの、落ち着いて。ほら、後ろの誰かも謝りなさいっ」
とにかく。あの男の怒りを鎮めなければならないのだ。汚らわしいとかそんな感情は消えた。色を怒らせるのは、とってもよくない。地球どころか宇宙が消える。全世界に住む命のためにも、ここは平謝りに謝らなければならないのだ――――!
「――――吼えろ」
瞬間移動。真下に接近した色は、視認さえ許さずに、怒声と同時に強烈な一撃を蹴り上げた。ハイロゥで強化されたその蹴撃は、宙に浮いているアーシュの足の下に潜り込み、背後の悪魔の腹部に命中する。
とん、と足が地面につく。後ろからは悶え苦しむ悪魔の叫び声。強引に、色に抱きとめられ、さらに連撃。足払いから体を回転させ、下がった相手の顎を打ち砕く強烈な拳を突き上げる。上下に揺さぶり、最後、トドメとなる回し後ろ蹴りで吹き飛ばす。轟音がパンデモニウムに響く。そこでようやく、体が下ろされた。
「……うわ、あんな汚いヤツだったのですか」
「災難だったな。っつーか何故にあんなヤツとキスまでしたんだ、オマエは」
寝転がった肥満体、しかも薄紫色の肉体をした半裸の男を見下ろす。そりゃあ、後悔もするってものだ。聖女として、人生の汚点であろう。
「は、はじめてが……」
「残酷だな。っつーか俺が来てなきゃ行きつくとこまで行ってたろ。感謝しなさい」
しかも、だ。感動の再会まで駄目にされた。こりゃあ、怨んでも怨みきれない。
「容姿と嗜好から言って、剣王アスモデウスだろう。豚さんではない。色欲を司る悪魔で、アンラ・マンユの手下だ」
不潔で肥満な男である。思わず、顔をしかめる。色んな意味で、辱められたものだ。
「……色、ですか」
「ごめん、違う。肉欲に変更。だから俺をそんな目で見ないでくれ」
視線をアスモデウス、もとい豚に変える。コイツだけは殺しても殺し足りない。不死者だというのに、もう死んだのだろうか。
「そうかそうか。聖女サマはこういう男が好きなんだな」
多分、色んな感情がまぜこぜになっていたのだろう。切れてはならない部分が切れてしまう音が聞こえた。
「そんなワケがないでしょう!このブタが貴方の格好をして貴方そっくりだったから!」
「――――ソレ、すげえ意味深だよ?」
そう、つまり。なんてことはない。夜神色だから体を許したのであって、他の誰かならそんなことはないのである。
「ッッッ、そうです。悪いですか?」
「開き直ったな……」
もぞもぞ、と足元で豚が動く。そんな中、なんで我々は視線を衝突させ、マジ喧嘩一歩寸前な雰囲気を出しているのだろう。悪いのは明らかにアッチだ。愛の告白めいたことを言われて、お怒りになるヤツのほーがおかしいのだ。大体、変なコトを言い出さなければ不毛な争いに突入することもなかったのだ。私は悪くないのだ。
「……ならば、実力で女を奪うまでよ」
がばちょ、と起き上がって色に剣を向けるアスモデウス。どうしてコイツはコイツで空気を読んでくれないのだろう。そんなに殺されたいのか。なら殺すしかないではないか。
「うるせえ、豚。寝てろよ」
一閃。すぱん、と豚の首が飛んだ。
「大体、オマエ不死だから死なないんだろ。地獄に落としてくれって頼むまで殺してやるよ」
「同感です。私を辱めたその罪、文字通り万の死に値しましょう」
「うわあッ、アンタら人間じゃねえよぅ!」
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来未と二人、パンデモニウムを走り出す。ティルヴィングは二度、使用した。使えるのはあと一度までだ。まだ切り札を保持しているということには、なる。
「――――」
じとっとした視線を感じる。横を走る来未からだ。死者が珍しいというわけでもないだろう。ただ単に、蘇った理由でも知りたいのか。それとも、やはり先のことだろう。
「もし、もしもの話です。私も貴方も普通に過ごす人ならば、」
「あァ?さっきのことか?気にするな、という方が無理かもしれないけど。大体、来未、幾つだよ。三十年近く生きてきて今さらファーストキスも何もないだろ」
先読みし、答える。そんなのは、分かりきってたことだ。平紗来未は楽しみを知らない。ずっとアーシュ・リーティアで生きてきたのなら、当然だろう。二十九年もの人生、一度も自分のために遊んだことの無い人間なのだから。全ては人のため、兄のため、異端を管理することを信条とし、迷う人々を聖女は導いてきた。
「セイクリッドってのは、アレだろ、自由な婚姻もクソも無いんじゃなかったか。血が薄まらないよう近親で交配させるとか」
「そうです。ただ、男児が兄だけなので」
「そっか。アイツ、雪村沙友理に首ったけだもんな」
結局、先代でセイクリッドは滅びていた、ということだ。仮に復興させようとしても、相手はフェイスタッドになる。リーティアの当主とは実の兄妹なのだ。なら、フェイスタッドの姉妹も未だ独身ということか。
「話を戻しますが。やはり気にします。だって、いくらなんでも悪魔とだなんて、私も当然ですが、相手になる方も気にするでしょう?」
「む。そりゃそうだな。ならこう考えろよ。俺が来るまでアイツが夜神色だったんだろ?少なくとも来未の目からは。それでいいじゃないか」
「乙女心のわからない人ですね。中身がブタだったのですよ」
「乙女心ならわかりまくりだ。俺、矢上彩だったんだぞ。これからは生理痛マスターと呼べ」
どうにも、こういう話は苦手だ。人を励ますなど向いているとは思えないし、改めて来未を見ると緊張するというものだ。今までそうではなかったのは、単純に女性として見ていなかっただけの話。異端の王様として見れば、興味より先に畏怖が来る。
「茶化さないでください。私にとっては真面目な話なのです」
足を止める。横にいた女の子が、立ち止まったからだ。背の低い、まだ少女のような容姿をした人。何に対しても真剣で、真面目で、真っ直ぐな人だ。それが時折、苦しくて、眩しく見えることもあるけれど。
「あー、何だ。来未は厳しく見えても実際は優しく甘い感じ。何よりキレイで可愛いってのは魅力。でもきっと、真っ直ぐなところがいいんだろうな。信頼できて、オマエは信頼を倍返ししてくれる人だ。何があっても、信じられる」
これは、おそらく自分が言わなくてはならないことだ。だから目を見て、その真っ直ぐさに負けないように答えてみた。どこか拗ねたような、無表情な顔が変わる。安堵したのだろう、満足げに笑って、こんなあやふやな答えに納得してくれた。
「それは平紗来未のことでしょう。私はアーシュ・リーティアです。優しさなど無く、公平こそ全てであれとする聖女に違いありません。貴方の答えは的外れもいいところです。けれど、貴方が信じてくれるのは何の飾りも無い私自身、なんですね」
相変わらず手厳しい返事。それでも最後は、やはり優しく、甘い。
「イエス。どっちも一緒。けど、何となく。俺にとってオマエは平紗来未だよ」
「ええ。私にとっても、貴方は夜神色で朝里煌貴じゃないみたいです」
それ以上は言わずに歩き出した。おそらく、言葉にすればありふれたモノになってしまう。それでも同じ想いなら、口にしなくてもいいかと一人で納得した。しかしながら、彼女は違ったようだ。最後まできちんと言うのが、彼女らしくもある。
「貴方は危なっかしい人ですから。一人で勝手に自滅してもらってもイヤです。だから、私が救いましょう、貴方の隣で。それでも、いいですか?」
「もちろん。凄まじい傲慢っぷりだけど、どんと来いだ」
彼女の隣にいれば、きっと栄光の道しか見えない。怖いモノなどありはしない。恐れることなどしないだろう。道を過とうとしても、聖女が隣で教えてくれる。
「……気になったんだけど、あのブタ、そんなに俺だったのか?」
「いえ、今思えばそうでもなかったです。色さんはあんなに優しくないですから。けれど、優しさの大安売りされても嫌いになります」
難しいことを言う。それでも、初めての自分らしいワガママなら叶えるのも悪くないだろう。
抜き身の剣には鞘を。自分が傷つかぬよう、そして相手を傷つけないように。
「ふぎゃっ」
奇声が聞こえた。聞いてはならない奇声だ。
「色さん」
「無視するわけにもいかないのか……」
声の方向を見る。見事にすっ転んだ王女様だ。パンデモニウムは確かに暗いが、障害物は無い。何もないところで転ぶとは、素晴らしいドジセンスだ。前々から思っていたが、あの女、かなりの間抜けかもしれない。
「ああ、色。無事でしたか――――!」
こちらに気付き、立ち上がって駆けてくるベアトリクス。来未とは別行動をしていたらしい。見ると、鞘には剣が無い。三本のうちの一振りは借りていたが、それもへし折って捨ててしまった。
「ベアトリーセ。そろそろ現代へ戻るが、オマエはどうするんだ?」
少年王を倒せば、すぐに戻らなければならない。神争を何とかするのが、目的なのだ。そこにベアトリクスは関係ない。また紋章院に戻るのだろう。
「よろしければ、共に。私は騎士だ。貴方を守り、聖女を守るのが、使命」
勝手に使命にされても困るものがある。あるのだが、ベアトリクスほどの人物を遊ばせるわけにもいかない。心強いのか頼りにならないのか、どちらかはわからないが、きっと楽しくはなるだろう。彼女の好意を、
無碍にするわけにもいかない。
「よし、揃ったな。なら後は、少年王に会うだけだ」
悪魔はすでに消え、残るは魔王一人だけ。万魔の宮殿を攻略し、現実を取り戻そう。
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(ハイペリオン/5) - Geschick -
少年王が
魔王なら、結末さえ用意出来る。辿り着くのは対極の
天使。この二極が衝突し、聖魔大戦は終結する。運命に従うならば、必ず、あの男は来るのだ。
手出しは無用。これは、反逆者と管理者の頂上決戦。
よく似た二人なのかもしれない。天使と魔王。対峙する空気は冷たく、重い。訪れた天神なる騎士は、言葉も無く前に出る。
ニネヴェの王は、バビリムの監視者。夜神色を放置する手など無く、現れたからには、抹消せねばならない。様々な思惑が交錯し、衝突し、激突した。
勝負は、刹那。互いに、最高最強の秘儀を持って激突するのみである。
「
Kaiser――――」
「
Triple――――」
術式は同時、非常に似通った構え、酷似する力を行使する。後光。ハイロゥを用いた特殊な展開放射。式が途切れても構わずなお、集束に時をかけた。一撃。それで打ち砕く。相手も同じだ。故に、一秒でも長く、力を集めて威力を高める。敵のハイロゥを突き破り、致命傷を与えるために、鏡合わせのように一致して待つ。
一言。
それで、終わる。どちらかが勝利し、どちらかは死ぬ。閉める一言を紡げば、ハイロゥは展開され、衝突するだろう。
勝つのは、我。すでに敵のハイロゥは知っている。ならば、勝機も勝算も、全ては我に。
「「――――
Halo」」
後光展開、前方照射。極大の一閃を放つ敵に対し、一方は、不足。細い。これでは、耐え切れない。案の定、夜神色のハイロゥは真っ直ぐに、衝突し速度を緩めながらも前へ。
不意に、地面が砕けた。
三叉の後光。光の槍は三の穂先。中央他、上下に分かれて突き進む。夜神色を目掛けて空と地面を裂きながら、その顔面と脚部に深々と突き刺さる。腕の光が消え、ハイロゥも消える。大きく吹き飛ばされ、後退した敵は擬似壁に衝突していた。
特性の違いだろう。三叉の光のうち、二本は敵のハイロゥを回避し、しかし命中した。万魔殿が光に照らされ、少年王は再度、構えた。
さらに、追撃。次で終わりにと再びハイロゥを展開させ、照射させたところで。この光が自身のものではないということに気付いた。それは、敵より――――
白銀の風、纏う。月光に似た輝きに照らされた、銀の鬼が立ち尽くす。
ハイロゥが、当たらない。遠距離に立つ敵の迫力は、すでに桁が違っている。銀月。髪も眼も、魔を祓う清らかなる色に。
対魔力。圧倒的なる魔の力は、脆弱なる魔を弾く。魔道士なら知っている。強大な魔導士に通常の魔法は通用しない。溢れる魔力は体外に放射され、外部魔力を弾く障壁と化す。
「臆したか、陽王。夜の神、存在表す名を持つ俺に。然らば、屈するがいい」
其は、神に似ていた。発するは感情の無い声。圧するは威厳と迫力。感ずるは恐怖や畏怖。神を前に人は、余りに無力。頷き、従うしか残された道など無いのだろう。
「戦は終わった。陽王、俺に従うならば付いて来るがいい」
言うなり、神はすでに背を向けていた。問題は山積、やることは多く。神は休むことなく、違う誰かを救いに行く。
正直な話、見惚れていたのだ。その迫力に、その存在性に。いつか、ああなれたらいいと自分の夢となる。英雄が無条件に自身の正義を貫く者ならば、神は無条件に人々を救う者だ。届かぬ夢だからこそ人は憧れ、そして目指す。
「夜神色。貴方は
月から
星を見下ろす神そのものなんですね」
「与えられた役割と思い割り切るしかない。代わりに、オマエに新たな世界を見せてやろう」
そう、未知なる道へと連れていってくれる。
夜神色は新しい世界を見せる、望遠鏡なのだ。
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