Mirage

Meteor/Reincarnation

天井の屋敷を前にする。

広大な屋敷は平紗よりも巨大で、城塞のような物々しさを孕(ハラ)んでいた。
死後の世界。生きて帰還は叶うまい。このままこの地で、転生を待つのも悪くない。
「行くよ、D」
冬真は進み始める。新たな武装を手にしながら、天井の居城に足を踏み入れた。
右隣を進む相棒からも、決意は知れた。覚悟のような気配が空気を伝わって肌を刺す。
もうこれ以上、立ち止まってなどいられない。これ以上、彼女をあの男に渡しているわけにはいかない。
彩の顔を思い返す度、足に覚悟と勇気が伝わる。そうだ、行け。行ってあの二人を殺せ。
堂々と玄関、門の前に立つ。閉ざされた扉。それを、蹴散らすようにして開けた。
広いエントランス。赤い絨毯(ジュウタン)の上で、左右に道が分かれていた。
「トーマ。ひとつ、占いをせんか?」
笑いかけてくるDに、リラックスするよう心がけて、笑い返した。
差し出された二枚のカード。エースか、キングか。エースなら右の道、キングなら左の道へ進むということだった。
無論、意味はあるだろう。キング、この屋敷の主がいる場所が左。
冬真は、右のカードを手にした。
「エース。D、そっちは?」
「キングだ。よし、じゃあオレはこっちに行くぜ」
案の定、Dは左へと進み始めた。
どこか罠めいた匂いを残しながら、それでも振り切って、僕は右へ折れる。
最優先されるべきことは彩の救出だ。キングが戴いている可能性が最も高く、エースが絡むことはあまり考えられない。
Dも冬真も、戦闘要員ではない。戦える人間は彩とか、キリアとかだ。あくまでも、冬真たちの位置づけは補助だった。それでも、根っからの戦闘員である天井と戦わなくてはならない。

故に。
この戦いは一人の天使によって左右される。

矢上藍は、彩が重傷だと言っていた。仮に救出出来たとしても、戦えないかもしれない。
全てが仮定だった。もしも救出出来ても、もしも戦いになっても、もしもこの道に待つのが神邪馬でも。
それらの仮定が全て予想を覆さなければ、勝てる。だが、万に一つの確率を信じて突き進めるのか。
走る。屋敷は、無防備だ。敵は騎士で、護衛など必要ですらないのだろう。
突き当たりを折れると階段があった。途中、幾つもの部屋があったが、全て無視してきた。
この手には、新たな兵器。握られた瑠璃(ルリ)が淡く輝いている。
きっと、矢上彩の魂は青色なんだ。だから、近付けば近付くほど、青が輝く。
確固たる自信を持って冬真は階段を駆け上った。二階。今度は中央へ向かって走り始める。
赤い絨毯。左右に部屋のドアが並ぶ。どれも、違う。
やがて、息が切れた。走る足が鈍り、壁に手をつきながら、ゆっくり、それでも進む。
再び階段が見えた。おそらくは中央。エントランスに位置する場所で、高さにすれば三階から四階に相当するだろう。中央には上階に続く大きな階段があり、異様なまでの迫力がある。
そしてその前。いつぞやのように、段へ腰掛ける女性がいた。

決別からすでに二人は敵だ。
開戦は出会う直後、目線の衝突から始まった。
来た道を逆走して、迫り来る攻撃を回避する。心臓は焦燥(ショウソウ)と共に心拍数を上げ、肉体の駆動に追いつかんと激しく鼓動を刻む。
「逃げるだけなの、冬真クン。それじゃ、平紗歩叶は助けられないわよッ」
花瓶が舞う。首を逸(ソ)らして直撃するはずだった陶器を避ける。
続いて乱れ舞う椅子の脚を被弾しながらやり過ごし、適当な部屋に肩から体当たりした。
そこは、応接間のような場所。ソファと大きめのテーブルが並ぶ部屋。
敵は――――祓鬼。神邪馬という家は祈祷、祝詞(ノリト)から成る式によって退魔を行う家だ。
神尾のような戦闘技術でも、夜神のような暗殺術でもない。三家の中では最も能力が低く、最も厄介とされたあの家は、魔術師の類に近い。
加えて、天井の能力も流入している。スキルを扱えるのだから、尚のこと性質(タチ)が悪い。
念動力に近いものだろう。物体に手を触れずに動かす、というのはスプーン曲げなどと同じ原理だ。彼女の場合、飛躍しすぎていてポルターガイストにしか思えない。
「とにかく・・・ここじゃマズい」
あの巨大テーブルが飛んでくるのを想像すると、背筋がゾッとする。
奈美の足音は緩やかに、しかし確実に近付いてくる。冬真は一応、銀銃を引き抜いて構えてから、ドアに張り付いた。
銃口をドアに当てる。動くのなら、撃つしかない。
押し当てていたドア。それが突然、消滅したのはすぐのことだった。
前のめりになる。ドアは、いとも簡単に、引き剥がされていた。目の前には奈美の姿。こちらに右手を向けて、必殺の体勢で迎え撃つ。
何が飛ぶのか。そんなことを想像する前に、銃弾の方が早く到達してくれる。
引き金は三度、きっかり眉間を狙って人差し指を絞った。そしてそのまま、冬真は床をごろごろと転がって、部屋から這い出した。
いつか味わった衝撃。気付くと宙を浮いていて、廊下の壁にだん、と激しく叩きつけられた。
それが、二度。神邪馬奈美は、君塚冬真という物体自体を動かして――――
気絶しかける意識を呼び戻す。肋骨がまた折れてしまっているが、気にしない。
見上げると、奈美は銀の弾丸を空中に停止させたまま、悠然とこちらを振り向いた。
ごきり、と何かが捻(ネジ)れる音。銃を握っていた右腕が、人体の構造上、有り得ない方向へと向いている。
遅れて、痛み。関節をもぎ取られるような痛みに、思わず喘いだ。
「残念。わたしはテレビでやってるようなエセ超能力者じゃないのよ」
答える余裕すらない。彼女は、スプーンどころか人体さえ曲げられるのか。
その顔から微笑が消えることはない。驕慢(キョウマン)、ではないだろう。笑みは、己が勝利を目前に確信した勝者のものだ。
「わたしはね、冬真クン。モノを動かすんじゃなくて浮かせるの。逆に言えば、この世のモノで浮いていないものはない。そうでしょ?地球から見れば、全てのものは浮いているんだから」
「それ、じゃあ。地球そのものは動かせないワケだ」
ああ、だったら。
彩、キミの勝ちだろう。


右の廊下、その突き当たりは大広間になっている。
そこがキングの居場所だと確信し、Dは観音開きの扉を両手で押し開けた。
王は深奥の地にて、優雅に茶を口にしている。椅子に座り、悠然とこちらを眺めてくる仕草は、威容を誇っている。
「Dさんか。やっぱり、歩叶を取り返しに来たのかい?」
トーマにエースを引かせた理由。
このアマイという男はあまりにも強敵過ぎた。今のトーマでは、天地がひっくり返りでもしない限り勝てはしない。
Dは統率者である。勝てる戦いしかしないし、負ける戦をするつもりもない。
しかし、戦わねばならない戦に必定の敗北があるとすれば?
なれば、彼は最善の手を打つまで。勝利を手繰り寄せるための計算をし尽くし、賭けの要素が入り込む余地は一切作らない。
それが、D。信義も理屈もない。彼の持つ、唯一の信念だ。

「いんや。お主のフィアンセじゃろ、好きにすればいいさ」

そう、負けるなら。
勝てる側につけばいいだけのこと。


まだ、自分は生きている。、
中央階段の前に引き出され、跪(ヒザマズ)いた冬真はいつでも殺される位置にある。
やがて、Dも来た。天井と一緒にやって来て、殺そうとする奈美に自身の武器であるカードを投げ渡す。
負けた、のだろう。傷は負っていなかったが、これで二人とも捕虜になったわけだ。
「で、神由。こいつらはどうするの?」
「可哀想だが、君塚冬真は殺してしまう。Dさんは、抵抗の余地も無いから、生かしておくよ」
奈美は年代物のカードをぱらぱらと眺めて、一枚のカードを手渡した。
ジョーカー。死神が描かれたカード。それは、未来を示唆(シサ)した運命。

ひらり、と一枚のカードが宙を切り裂く。

まるで刃物のように、投げて寄越した奈美の右手にカードは刺さっていた。
「行け、トーマッ。ヤガミアヤを起こしてこい――――!」
やっぱり、イカサマの占い師め。
最初から「キング」を手にしていたな。握られた二枚は、両方ともエース。
そして「二人」をここに呼び寄せた。彼は、二人同時に相手をして、僕を彩へと導くために。
そうだ。三人いれば、負けるものか。
向かい合う殺気の中、Dは自らの左腕から、のそりと長柄の武器を取り出し、渡してくる。どこにそんなもん隠してたのかは追求したくない。
剣らしきソレを受け取り、落ちていた銃を拾って背を向ける。
振り向いたその背中に何かが飛んできたが、飛翔物は空中で弾けて霧散する。
「余所見(ヨソミ)してるヒマは無いぞ、二人とも。トーマを止めたければ、このオレを殺してみせろ」
背中越しにDの声を聞き、後を託して僕は階段を一気に飛び越えた。

まるで、教会だ。
彩られたステンドグラスからは日光が差し込み、聖女を淡く照らし出す。
満身創痍の体で、祭壇の聖女を見上げる。瑠璃だけを持って、捕虜になりながらも辿り着いた場所。
彩は、綺麗だった。触れない。だって、彼女は余りにも、遠すぎる位置にいる。
神々の望む場所へ。世界が認めた高みへと。少女はその翼で空へ翔けていった。

両腕の縛めは天へと続き、小さく喘ぎ声が聖堂に響く。

まるで、許しを乞うように。少女は俯き、手だけを天に掲げ、前のめりに苦痛に喘ぐ。
その鎖を、両手で握った。力を込める。ぶちぶち、と鎖は切れる。
呪縛は二つに。矢上彩と天とを分つ。
華奢な体を抱き止める。外傷は目立っていないが、微かに血の臭いがした。頭部の裂傷は、まだ完全には塞がっていないようだ。
ゆっくりと、彩が目を覚ます。開いた瞳は、蒼い。
「――――」
言葉が紡がれる前に、慌てて体を引き離した。自分の血で、天使を汚してしまわぬよう。
彩は一人で世界に立つ。危なげな足取りで、しかし、確実に一歩を。
「冬真」
名を呼ばれ、ずっと見続けていた顔、その青い目に焦点を合わせる。
「回復まで時間がかかる。それまで、耐えてほしい」
「当たり前だよ、彩。僕は――――そのためにここにいる」


拳骨がめり込む。右腕を思い切り頬に被せ、振り抜いた。
軽く吹き飛ぶカミヤマを見ながら、そろそろ頃合と見て一気に戦場を離脱する。
幾らDでも、カミヤマとアマイの二人を相手にするのは不可能だ。ここは、最大の戦力を最強に当てるべきである。
勝てる側は、トーマがカードを引いた瞬間に決まっている。
「立て。こんなオワリじゃ客は納得しまセーン」
蹴り上げて左の廊下、突き当たりまで吹き飛ばす。肋骨の折れる感覚を確かに感じながら、これでアマイとの距離はかなり稼げたはずと認識する。
スーツの上着を脱ぎ捨て、もう一つ、ワイシャツのボタンを外す。アマイをトーマに任せるなら、ここでこの女を殺すしかない。
噎せ返りながら、女が立つ。目は憎悪に燃え、口は罵詈に覆われる。
「フザけた男、よくも顔をな」
ハートのキングを投げる。どうやら喋っている途中だったらしく、さらに形相を憤怒に変えて右手を振り上げた。
「おー。悪いなっ、オレ、日本語知らないべ?」
「・・・」
意識を集中させている。空を舞うのは無数の物質。それは机であったり、絨毯であったりするが、この場合は確実な武器に変わる。
死ね、と号令。一斉に解き放たれる物質の弾丸が衝撃波を伴う音速で飛翔する。
それらを眺めたまま、Dは特に動かず、特に喋らず、ただ迫る死を眺めていた。
「獲った・・・!」
勝利を確信する声が耳に届いたのは、全ての弾丸が後背に逸れた後だった。
先程、トーマに与えたルーンがある。目の前の女はトーマにカードを与えた。
矢止めのルーンが刻まれたカード。いくら趣向を凝らした攻撃を用意していようとも、それが飛び道具であるならば、このルーンを破ることは不可能である。
「超能力者がナンボのもんじゃい。ワシぁ知らんけんのぉ」
飛び交う弾雨の中を突き進む。曲げてこようとする念力を解放のルーンで無効化し、徐々に接近していく。女の表情は、すでに憤怒を越して悲壮なまでに変わっている。
「飛び道具ってのはな――――こう使うもんだ」
右手を染め上げる呪詛が浮かび上がる。一瞬の静寂、全ての音が消えた世界で、Dは右腕を振り上げた。
五指を振るう。光弾は一度、跳ね上がってから敵へ向かって一直線に飛翔する。
小さく掛け声を残し、敵は右へ、一階へ続く階段の方向へ跳ぶ。
続き、戸惑いの声。階段の下に飛び降りた敵は、軌道を曲げてまで追尾する光弾を目にした。
Dは吸血鬼でも異端者でもなんでもない。ただの占い師だ。それが魔法を扱い、呪術を行使し、ルーンを刻んで先見を行う。
ディエゴ・セルジュ。スロウ日本支部が全幅の信頼を寄せ、君塚冬真の護衛に任じた最高の占い師は、敵を視界に収めるため、階段まで移動した。


「掛(カケ)まくも畏(カシコ)き伊邪那岐大神(イザナギノオホカミ)筑紫(ツクシ)の日向(ヒムカ)の橘(タチバナ)の小戸(オド)の阿波岐原(アハギハラ)に禊祓(ミソギハラ)へ給(タマ)ひし時に成りませる祓戸大神(ハラヘドノオホカミ)等(タチ)諸諸(モロモロ)の禍事罪穢有(マガゴトツミケガレア)らむをば祓(ハラ)へ給(タマ)ひ清め給へと白(マヲ)す事を聞(キコ)食(シメ)せと恐(カシコ)み恐(カシコ)も白(マヲ)す」


祝詞が聞こえる。
おそらく、Dには理解出来なかったであろう詞。唄うように刻む式を、ただ美しい音色と感じただけだ。
無論、神邪馬の家は知っている。祝詞によって祓鬼となった一族。魔術の詠唱に当たる詞を耳にし、Dは立ち止まった。
否、動けない。Dはまるで、大気に磔(ハリツケ)にされたように、一歩たりとも、小指一本すら動かせなかった。信じられぬことに、両足が地面から、僅かに浮いてしまっている。
腹部を押さえ、苦々しい表情で上空を見上げる敵。視線の先、釘付けとなったDがいる。
祓詞。儀礼の前、悪なる霊を祓うための歌は、まさに祓鬼とされる所以であろう。
神邪馬の持つ技能。それは、「凝固」にある。空間を凝固させ、空間内を閉じ込める空気の牢獄。呪術でも、物理的方法でもない堅牢な格子を破る手段は存在しない。
あるいは、夜神色なら、破れるかもしれぬ。しかし、ディエゴ・セルジュには魔眼も無い、スキルも持ってはいなかった。
不意に、Dの頭部が揺れた。
他の空間を凝固させ、飛翔させて攻撃を加える。回避は不可能、防御も有り得ず、黙って死を享受するしかない。
階段での攻防。それは一方的な殺戮へと変貌する。
「飛び道具ってのはどう使うのかしらねぇ、外人サン」
きっと、人が空間を見れるなら、それは巨岩に匹敵する重量とサイズを持っていた。一気に加速させ、Dの頭蓋目掛けて飛翔する攻撃。

「侮るなよ、小娘。空間干渉が出来るのはお主だけではない」

言って、牢獄の中から、Dは高笑いを漏らした。
牢が揺れる。ぐるり、と円を描いた線が浮かび、やがて何かを象(カタド)った紋章(シンボル)となる。
予(アラカジ)め置いておいた紋章を起動させ、空間に魔方陣を発動させる。巨岩の攻撃を防ぎ切り、重量そのままに、巨大な火球を生み出した。
魔方陣を前にし、完全にDは自由を取り戻す。
笑いながら、魔方陣目掛けてDは右手を振るった。殴りつけるは巨大な火の玉。全てを焦がす業火の中へ。

火は奈美もろとも包み込み、天井神由の屋敷を半壊させては勝利を告げる。

「さて、あちらはどうなったか」
見上げる先、空中に浮いたように位置する聖堂から、輝く光が漏れていた。


吸血鬼と戦った時とは、比べ物にならず。
体は重く、右足と左腕の肘に椅子の脚が突き刺さっていた。他にも、被弾した部位は幾つもある。君塚冬真は文字通り、満身創痍であり、最早戦える体ではない。
しかし、約束がある。今一時、矢上彩を守るため、君塚冬真は盾となる。

「――――歩叶に触るな、下郎」

怒りを孕んだ声は大気を震わせ、鼓膜を揺るがせ脳へ届く。
「ここに。ほら、座って」
手を取り、並べられた木製のベンチに彩を休ませる。悪いが、天井の罵言に付き合っているヒマは無い。
Dから渡された長柄の武器を隣に置き、覚悟と共に銃を握る。
青い目が心配をするように一点を見つめていた。引き込まれそうな深海の蒼。何となく、冬真は望月崇行の言葉を思い返していた。
――――僕の命は、何色なのだろう。そしてそれは、消えそうなのか。
鈍る決意から逃れるように、冬真は視線を矢上彩から引き剥がした。それは強引に。重たげな首を動かして、迫る敵へと視線を投げる。
天井神由は見事な決意で戦いに臨んでいる。昨日までとは違う。確実なる殺意を明確にし、敵として退路を塞いでいた。
鋭い西洋風の大剣を手にする敵は、黒い鎧に身を固めている。平紗が白騎士なら、さしずめ、黒い騎士といったところか。対照的に、髪や篭手などは白銀である。
白い姿の黒騎士を前にすると、さすがにしん、と芯が痛む。心の奥底が恐怖と共に生命の危機を告げている。当然だ。あれほどの力量を持った相手、夜神色でも敵わない。

なにせ、一度「朝里煌貴」は殺されている。

「オレの大事なモノを汚したか。君塚冬真――――」
「――――二度も大切な人を殺させない。天井神由」

言葉は最後に。
決定的な立場の差を示して、二者を分つ。
階下では激しい戦闘の音が聞こえている。呼応するかのごとく、聖堂は戦場にと変わっていく。

左手で狙いを支え、躊躇も無く君塚冬真は銃声を響かす。
敵は遠距離よりも接近戦を望む。あの剣で死を手にかけるため、刃の届く範囲まで接近する必要があるだろう。
四発の弾丸を全て凌(シノ)がれ、冬真は二歩後退した。残弾など気にしない。手持ちの弾丸全てを撃ち切る覚悟で、後退しながら引き金を絞る。
間合いの取り合い。初戦の鬩(セメ)ぎ合いは命を懸けた距離の奪い合いに始まる。
どん、と背が祭壇にぶつかった。聖堂の深奥、以後に逃げ場は無く、後退が終わりを告げる。
天井は彩に目もくれず、その突進の勢いを緩めない。必殺の意思は断固たる決意の上。死してこの身を越えるまで、天井神由は止まらない。
すでに目前。刃が届くその瞬間、銃身の式を紡ぎ出す――――!
「そんな、もの――――」
左手に担いだ盾。手甲のような左腕を前に出し、迫る爆発を防ぎきろうと天井はなおも進み来る。
閃光、遅れて爆音。煙る景色の向こう、無傷で攻撃態勢に入った天井が見えた。
背後は無い。回避行動など不可能。振り上げられた剣を黙って受け入れるしかないのなら、どうせ死んでしまうのなら、最後の最期まで足掻いてみせる。
身体を跳躍させる。否、跳ぶのは、命。
大地を削り、両脚にあらゆる力を籠(コ)め、空を目指して飛翔する。瞬時に漏れる、現在地の破壊音。胸元を大きく切り裂き、しかし天井は、君塚冬真を空へと逃がした。
「――――此処なら」
さながら、冬真は浮いているようだった。
星の力から解放された空の居場所。ヒトでは到達出来ない場所を、僅かながらも踏破して、冬真は瞬間的に空へ浮いている。
此処なら。間合いも距離も関係ない。いくら天井が優れた騎士だろうと、空に駆けることは不可能だ。
最後の弾倉を銃身に込め、ありったけの残弾を叩き込む。天井に手をつき、飛翔は跳躍に変わりて、君塚冬真は大地へと着地する。
機銃掃射の跡。その全てが聖歌に基づく爆発であり、彩のことを一瞬忘れていた自分がいた。

「見事なり、異能者。だがしかし、その力で騎士は滅せぬぞ」

あ、と瞬間。
君塚冬真は死を悟り、我が身を切り裂く刃を垣間見た。
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