Mirage

Meteor-4

竜泉から、這(ハ)い出る。
崩落した世界は見るも無残に、天空からの落石で完膚なきまでに破壊されていた。
「ぅ、はぁ、ぁ」
喘ぐように呼吸を続け、ばしゃりと矢上彩は地面に伏した。
武器も無い。力も無い。満身創痍で生きることさえ難しい。拳を握る力も、立ち上がる力も無い。

「――――久し振りだねぇ、歩叶」

懐かしむような、人形を愛でるような音。
眼さえ開けない世界で、ただ音だけが聞こえていた。
濡れた髪が揺れる。触れられているのだ、と彩は理解した。嫌悪感が全身を支配するが、抗うだけの力は残されていない。
「さ、帰ろう。オレたちの世界に」
体が浮き上がる。
抱かれているせいだ。朝里煌貴と平紗歩叶の意識は矢上彩として、「嫌悪」だけを生み出した。
するりと、手から何かが抜け落ちる。
しかし、それが何かまではわからなかった。
「戻ったら、すぐに婚儀だ。あぁ、でも奈美がいるから、妾にしよっか」
唇が触れる。
気が触れそうになる。
抗う術を知らず、まして、意識を保つことさえ、出来なかった。


――――だから、誰か


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(星の船/)



帰還と同時に着信があった。
驚くべき内容が詰まった電話。それを、僕は相棒と二人で聞いていた。
京都から一路東北、遠野へ。ヒース・アルヴェンと一度合流して、情報を交換してから、夜神の当主と会見をした。
「彩が攫(サラ)われたんですね」
「待て、トーマ。おぬしではアマイに対抗出来ない。行っても返り討ちに遭うだけだ」
Dの声も聞こえない。何が返り討ちだ。刺し違えても彼女を連れ戻す。
それだけだ。
「ヒースさんは引き続き彼方くんの保護とリヴィエルロット探しをお願いします。藍さんはそれを補佐してください。D、僕と一緒に来るか?」
「当然じゃ。何があっても、トーマを死なせはしないさ」
二人に別れを告げて、崩落した現場に向かってみる。
天然記念物で、三大鍾乳洞である竜泉洞は跡形も残っていない。集中的な隕石群が命中し、まるで月面のような凄まじさだけを残している。

――――きらりと煌く、輝く欠片。
    見たことの無い、しかし、間違えようの無い彼女のシルシ。

「瑠璃、だ」
それは、空の欠片。彩が行使した魔法の結末に他ならない。

僕たちは星の船を手にしている。
異界へ続く、扉の鍵を。

「行こう。もう一度、鏡の世界に」

僕たちは星の船を手に入れた。
後は、再びあの扉をくぐるだけだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――――Meteor/(了)





Copyright 2005 STELA All rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-