Mirage

ilya-6

ふたつの存在は、存在し得なかった。
世界という境界で阻まれていたからこそ、存在が可能だったのかもしれない。
「イリヤ。フランス語で、存在という意味だ」
戻ってきた柚葉は、銀色のナイフを見ながらそんなことを言った。
「ひとつの命なのに、彼らはふたつに分かれてしまっていた。それぞれの魂を、己が武器に籠めて。物質の死というのは人間よりも遥かに長い。武器という存在なら、確かにふたつ、有り得ただろう」
器はふたつ。なら、注げる命の量は半分ずつだ。
器はいつか壊れる。通常は、注いだ命を片方の器に注ぎ、そして壊れる。
永久に続く、輪廻。
しかし、彼らは違った。
ふたつに注がれた命。彼らは、注がれた命を凍らせて氷にして、次の器に入れ替える。
氷なら、どの器でも溶けて、元に戻るから。
「ひとつは製氷機が壊れたから、元の形に戻る。グラスいっぱい、命は満たされるだろう」
ふたつのグラスに罅(ヒビ)が入った。
流れ出る命。
グラスは今まで、世界という壁に阻まれていたけど、罅を繋ぎ合った。
命は片方に流出し、片方は空になった。


十二月、雪の降る日。
朝里煌貴は死んだ。
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