Mirage

Equilibrium-6

此処は星の中心地。生命が循環し、世界へと送る地点。
役者は揃う。ただ、邪魔がある。
倒れ伏した二人の人間。駆けつけた、誰かが介抱していた。見覚えは、あるのかもしれない。思い出せないだけだろう。
距離は遠く。離れた場所から、見つめ合った。
「――――冬真。全てはあのトンネルからか。世界は知っているモノだけじゃなかった。知らないモノを知ることで、変わったんだな、俺たちは」
「そうだね。知識も、意識も立場も変わった。君が誰かはもうわからないけど、ひとつだけ教えてほしい」
不思議がある。ただ、知りたい。
幻像にも似た世界の在り方。生命を格納する惑星の意味を。

「どうして――――僕たちは、ここにいるんだろう」

複雑に絡み合った思惑がある。様々な意思を持って辿り着いた先がある。
これが運命というならば、僕たちは何を望まれて生きてきたのだろう。
「生命、というのは。多分、一つじゃないんだ。色々な命があり、それらが織り成す色彩こそが命なんだろうな。生活、日々の営み、文明。それこそが、生命というモノかもしれない。俺たちが立つ世界こそが生命と言うんなら、大きすぎる生命の輪にいるのさ。星は生命に場所を提供する。生命は循環することで永遠を体現し、星に生命を与える。死後の世界やら天上の世界なんてモノは、その産物だよ、きっと」
「世界の契約。星は物質で生きてるワケじゃない。自らに住み着いた生命という彩りと約束をするってことかな。生命は巡り巡って永遠になり、そのシステムこそ擬似生命となる。ああ、だからか。君はその契約の監視者、地球と人間の間に立つ観測者なんだね」
契約を裏付ける証人。地球という星を観測するのは、空と月だけ――――
大地(エリスレア)と生命(アルス)。そして、月(ディアナ)。三人が創る、世界の御伽噺。
生命は誕生する。文明が成立し、彼らは根源を記録するだろう。それは神話や民族説話として語り継がれる。世界と人との契約。いかなる神話にも記載される、天地創造の後、人の発端の物語だ。時として信仰や宗教の対象にもなるソレは、原初は神と崇められる。
どの神話でも共通するのは、世界が神を生み、神が人を生むということ。神という仲介役を通じ、生命は誕生する。世界と生命の間に立ち、観測するのが神。上に、上に。雲より上へ、空より高く、届く場所は月だけだろう。
「神は観賞できても干渉できない。生命はただ循環するだけだ。星が生んだ、世界という輪。永遠に螺旋する再誕の環(メビウス・オブ・リバース)」
「ここが、その中心点。∞の芯ということ、なんだね」
役者は揃っている。天使たる矢上彩、生命を司るアーシュ・セイクリッド。そして、月。
なら、自分だけが除け者だろう。境界者。三人が敵になるのも道理だ。ここに境界者が立つということは、永遠を分離することを意味しているのか。
夜神色。死んだ鬼が幽玄と厳かにやって来る。
「冬真、何を望む」
手には剣。あの吸血鬼に刺さった、童子切の刀。銀と輝く刀を手にし、近付いてくる。
感情はただひとつだけだ。恐怖。畏怖する心が後退も前進も許さなかった。
「幸福を。人が追求する究極の願いじゃないか」
必死の抵抗だった。幸せであれ、笑顔であれと願う。でも、自分はどのようにして幸せになろうと思ったんだっけ――――
急げ。答えろ。早くしなければ、アイツが来る。
自分を変えたい。力を望んだ。それは、何のために。世界を知った。知らない世界も知った。そして思ったはずだ。

「好きな人がいたんだ。だけど届かなくて、力を望んだんだ」

来る。来る。来る。来る――――!

「そして思ったんだ。世界は不公平で、間違ってるって。平行なんてしてないのに、個性すら無かった。だから、願うんだ。誰しもが笑えればいいって」

それは、世界が一個じゃ叶わない望み。
なぜなら、この願いは。世界を滅ぼしてこそ叶うモノ。

「そうか。オマエに平衡は崩させない、ディバイダー――――」

――――夜が、来る。


敵だ。もう願いも祈りも関係がない。思うコトはただひとつだけ。
死にたくない。生きていたい。どんなに醜悪だろうと生きるのが願い。
走り出す。敵も同様、長刀を片手に接近してくる。純粋な武器の衝突なら、この魔剣は上回れる。
振りかぶり、両手で柄を握る。速力をエネルギーに、勢いそのままに、袈裟に切り下ろす。敵は、下段。左手で柄を握り、右手で刀身を支えながら、切り上げて止める。
肉体は肉薄。上下に分かれ、二つの刃を挟んで対峙する。
力は、敵が上だ。弾き返され、軽く後退してしまう。空隙。開いた距離。詰める一撃は速く、残像のような姿が見えた。
剣を盾に、受ける。威力も重さ速さも桁が違う。まるで、連撃。たったの一撃。それが、幾重にも折り重なった攻撃に思えた。
敵は、二人。いや、三人。それは残像でも幻でもない。彼はただこの一瞬、明らかに増えていた。
二度目。一は複数に。月が日々その姿を変えて、存在するように。ただ一人きりの敵は、無限だ。
数えて六。一振りの斬撃で、胸に六ヶ所の傷がつく。
即座に傷を回復させ、さらに下がった。剣など届かない範囲に。接近戦で勝てないのなら、砲撃してやる。右手に力を、意識に集中を。願いは集束し、世界を浄化する炎となれ――――
舌を打つ音。反応するものの、間に合わないだろう。この一撃で、敵を潰す。
放射、爆発。そして炎上。命中はしなかったが、影響はある。軽い火傷のような傷を負った敵が、爆風を逃れて着地する。まだだ。まだ、足りない。
剣を握る。世界を打倒した、天地を分つ魔の剣。天高く構えたその瞬間に、体の中を通過する何かを感じた。
電撃(ブリッツ・クリーク)。神速と脅威を込めた攻撃を評すならば、まさしく電撃だっただろう。複合次元集束位相攻撃。彼はこの瞬間だけ増幅し、指向を揃えて攻撃と化す。
だが、敵は一人だ。分裂したわけでもない。彼は存在する。この世界、この次元、この場所を超越して、だ。別の世界の同一人物、別の次元の同一人物たちを引き連れて、集束する。
それこそが「月(ディアナ)」の証(レガリア)。彼は、あらゆるモノを視覚とする。今、この場所にいながら、別の場所を観測する。世界全てを見渡し、両世界を空から見下ろす。三次元ではない、四次元の住人。いや、四では足りない。世界というモノが三次元で、過去・未来という時間を含めたモノが四次元ならば。もしあの時、あの選択をしたらという別の道を行った個を見る必要がある。並行世界の観測を含めるならば、五次元。まだ足りない。世界は境界を挟んで二分化されている。
六次元空間の観測者。夜神色という月の半身。あらゆるモノを監視する望遠鏡(フェルンローア)。
回復も間に合わず、切り刻まれる。肢体を死体に。視認すら許されずに、死んでは生き返ることを繰り返す。無限の痛み。死ねない辛さ。水を失う魚のように、何も出来ない――――
ああ、なら。助けてもらうしかないじゃないか。

――――手には楯。全てを反射する女神の楯を。

敵が後退する。力など、微塵も残されていない。ただ、楯を持った。これで、死ぬことは無くなった気がする。
アイギスの楯。天井神由が装備していた最高の楯。あらゆる攻撃を反射するこの防御を突破するのは不可能だ。あの時は、モルガンが固有魔法を発動させ、別世界を構築して鏡から姿を消した自分が所有者から分離させた。
突破は不可能。敵も例外には漏れず、足を止めてこちらを凝視している。
「――――」
放物線を描いて、何かが頭上を飛び越えた。後方から投げられたであろうソレは、剣。
神の剣。前回の神争を終わらせた、聖者が持つ剣。神造兵器、月が与えた聖者の心。
間に合わない。避けられないなら、防ぐしかない。月神の手に剣が渡る。来る。防いでみせる。
予想に反し、何かが飛来してきた。放たれる剣は真っ直ぐに、この胸に。両手を前に、飛ぶ剣を受け止める。楯。全てを反射する楯が――――鏡のように割れた。
守る防波堤はもう無い。夜が来る。夜が来る。太陽は落ち、死を司るだろう夜が。
二刀を握る、敵の姿。もう思い出せない親友の今。夜神色という名称を持ってしまった、高校時代からの付き合いだった親友が、きっと、いた。
目の前に、夜が立つ。自分よりも少しだけ高い背。目は銀色に輝き、まるで白内障を思わせる、色の無い視線。アージェンタイン・ディアナ。銀は魔を打ち払う清純の色。月は魔を呼ぶ死神の星。相反する二つを握った、究極の敵。
迫るだろう死は、まだ、来ない。

くるり、と。敵が背を向ける。自然と、視線もそれを追っていた。
――――信じたくない。目が現実を拒絶する。男の背を越えた先、ふわりと浮かぶ天使の姿。
「二回は殺した、ってのに」
「フューリーでもナイフでも殺しきれないのさ。アイツは世界だからな。加護のレベルは俺やアーシュを超える」
どこか親しみを込めて、夜神は言う。両手に剣。たくましさすら感じさせる背中は、無言で意思を伝えてくる。
影になって、天使の姿はよく見えない。見てはならないのだ。バロールの魔眼。視界全てを死界とする目。それは、世界にだけ許された殺害権利。対生命に特化した絶対的な権力行使。
月だけは例外だ。彼は生命でも世界でもない。故に、権利の内側には含まれない。

「オマエの願いはな、いつでも叶えられる。世界なんてモノはちっぽけで、自分の目に映るモノだけだ。その世界を、人はきっと幸せに出来る。誰からも与えられず、誰からも干渉されず、己の力で願いは叶うはずだ」

他者から譲られる幸福の椅子などいらない。自分で得るモノだから価値がある、と。
ああ、それは、正しいんだろう。人の手に余る願いだからこそ、奪ってしまうことになる。
だからやり直せる。いくつにも分かれた道。道標など何一つないけれど、向かう先、向かう方向はきっと同じ。終着点は、同じ方向にあるんだろう。

「けど、この道が間違ってたなんて思いたくない。たとえ幻だったとしても、この想いだけは真実だから」

想いを抱いて、人は生きる。悲しみも怒りも、喜びも帳消しになど出来ない。
方向修正など出来ない。一度乗った列車は、止まらない。次の停車駅まで、ノンストップ。
だから最後にひとつ、終幕を迎えないと、元ある居場所に帰れない――――!

ここは、世界が生んだ最後の楽園。視界は異界で、死の世界。天使が誘うその世界、拒絶しなければ戻れない。生命と世界が織り成す、浄土の地を。
空を舞う天使は、幻像だ。虚構と真実。きっと自分が求める世界ではないモノ。幻の結晶。鏡のように合わさって、同一なる二者が融合した姿。それが、僕の友人。今の彼女は、違う。
ミラージュ。蜃気楼のように遠く、儚い天使の姿。おそらくきっと、彼女が遺した尊い夢の欠片。彼女の残滓は、最早、絶対的な意志だけで存在する。
「ディアナ。干渉は契約違反よ」
「悪いな。それでも、もう間に合わなかったかもしれないけど、俺は」
言葉は続かなかった。アイツがどんな思いを抱いているかなど、関係は無い。今はただ、この天使の舞台(ディビーナ・コメディア)から逃れて、現実を掴む。視線の死界、星の守護(イオノスフィア)、隕鉄の剣(ミーティア・ハイロゥ)を持つ天使。それら全てを踏破して、失われた自分を進めるだけ。
「君塚さん。私の魔眼で死界だけは解除します。色さんは何とか天使の守護を突破してダメージを。最後は、貴方です。その境界能力で、星と彼女を断ってください」
背後から、名を呼ばれる。誰かはわからない。味方なのだろうと楽観視しただけだ。
もう天使は生きられない。中身を殺され、空の器は世界と機能する。世界との繋がりを分断すれば、ただの死体になる。
迷う時間など無かった。即座に色は展開し、代わりに、背後の白い少女が前に出る。
赤い魔眼。天使の死界を遮る、もうひとつの世界。彼女は、アルス。世界が天使なら、生命は彼女だ。擬似的に世界を構築するまでに至った、人類の結晶体。異端という種族は、人を超越した人である。ならば、その異端の代表たる人物は、新人類の代表だろう。
世界に対抗するのは、世界。セイクリッドというひとつの種族が持つ、深層世界の表層化。確かに、眼前に展開されるのは、ひとつの世界だ。小さいながらも、此処とは違う何処か。白い雪が、自分の真上からのみ降り注いでくる。
「色さん――――!」
天使はすでに、標的を変えている。接近するディアナ、夜神色。二刀から繰り出される複合次元集束位相攻撃。一撃が連撃に、神速は光速になって空を蹴った。その数は実に十二連――――!
人間相手であれば、充分な一撃だ。胸部を切り裂く夜神の太刀。深く、広く。爪痕のような痕跡を残して、それでも、防いでいる。世界の守護。物理耐性を持つ強大なバリアに思えた。元より、地球とはそういうモノだ。外敵から身を守るため、表面上に電磁バリアを展開している。
確実にダメージを与えつつ、夜神は当てては退くことを執拗に繰り返す。決定打にはならないだろう。傷つけることは可能だが、あれを突破するには少々、火力不足だ。
だから、ディバイダーがここにいる。

一歩、前へ。傷つき、疲れ果てた両腕に力を送り、両手で魔剣を握る。
雪の世界を越えて、死界へ。幸い、視線は夜神に向いている。あとは、見られるのが早いか、こっちが到達するのが先か。分の悪い勝負にも思えたが、最後まで人任せでは情けないというものだ。
記憶は不透明。意識は不明瞭。自分がなぜ、どうして、こんな場所にいて、何をしているのかも、よくわからない。だが、何をすべきなのかは、はっきりと理解していた。それだけが自分の、存在意義だと言うように。

進め。この先、願いを果たすために。

激しい剣戟の音が聞こえる。ああ、そうだ。朝里■貴と平紗■叶は、こうして出会っていたんだっけ。もう思い出すことも出来ないから、なぜだか、涙が流れるだけ。名前さえ思い出せないのが悔しくて、悲しくて、けれど、この想いを抱かなければ未来に意味などないだろう。
天使は空高く、四枚の翼で天空に立っている。見上げる、その姿。記憶の海に沈んでいった誰かの姿。
石を、握ってみた。ペンダント代わりの、蒼い宝石。意志を運ぶ、星の船となれ。
この先、どうなるかなんてわからない。それでも、僕らは歩き出す。

――――空を駆け、浮いた体ごと、剣を天使へ押し当てる。

背中から、天使の翼を串刺しに。ぞぶりと、胸から突き出る炎の刃。
これで終わるはずなのに。これで帰れるはずなのに。何故だか、涙が出てくる。
その黒い髪に、その白い肌に、確かな熱を感じて――――天使を空へと返していく。
「もう何も心配はいらない。もう何も、何も、背負わなくていいから」
だから、還ろう。ここは螺旋の中心地。キミの居場所は、とても近くに。
剣を離し、石から手を放す。まっさらな気持ちで、空へ、意識も何もかもを預けてみる。
目を閉じる。世界は、無い。あるとすれば、自分のみが、世界だろう。

どうか。
この目を開くその時は、明るい世界が待っているようにと願って。










I looked at long, very long dream.

It was the happy everyday life which is not changed into many things.

 

It seemed like the heat waves which are far, are visible very in the distance.

Everyday life of the vision which keeps leaving from me seemed like the “Mirage”

 

Time keeps changing the person slowly securely.

So, as for me it could live even in the world where you are not.

 

 

 

While feeling you who become fantasy, I think.

This dream was not lie.

So would like to believe.

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