Mirage

Angelic-5

「氷彩、氷彩」
名を二回呼ばれ、目が覚めた。
兄の声。ああ、そうだ。私は兄の車で家まで送ってもらってたんだっけ。
「警察が来る。さ、行こう。第一発見者っていうのは色々厄介だからね」
「え?」
後ろから手を引かれ、私は、初めて。そこがどこなのかを視認した。
そう、認めた。そこは、先程の夢。鮮やかな手法で女子高生を殺害したその場所だと。
「見ない方がいい」
引っ張られるように、兄の冬真は強く、手を引いた。
――――死体の傷は四ヶ所。私が傷つけた、場所と同じ。
意識を半ば消失したまま、氷彩はその場所を離れていた。車に乗せられ、あっという間に実家へと到着する。
――――衣服に返り血は無い。だって、血が飛ぶ前に避けたから。
「・・・氷彩、それ、返してくれないかな」
夢遊病に浮かされる私の手から、兄は強引に何かを奪った。
――――銀色のナイフ。これで、六人を殺した。
視界に一瞬だけ、見覚えのある凶器が映った。
誰が、何のために、どうして、持っていたのか。
車が去っていく。氷彩は、玄関に残されたまま、しばらく無想の境地を経験していた。

夜が来る。
夜は大嫌いだった。就寝を促す親の怒声と、オレンジに光る不気味な電灯があったから。
好きなことが出来なくなるから。昔から、夜は嫌いだった。
今は、最高に大嫌いだ。
昔、豆電球をお化けの目だと思っていた。兄は「オバケは迷惑かけないよう、暖かい色の目をしてるね」と諭してくれたおかげで、少しは眠れるようになった。
夜。ベッドの上で、電気を点けていると、階下から怒声が聞こえた。
けれど、消せなかった。
電気を消せば、闇が来る。
闇が来れば、夢を見る。
夢の中で、誰かが死ぬ――――
「氷彩、もう寝なさいって何度言えばわかるの」
かち、かち。
オバケが、私を見守っていた。
寝るもんか。寝たら、オバケがやって来るんだ。

「無駄だよ」と、誰かがささやいた。


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(天使再臨/4)


「無駄だよ」

叫ぼうとする口に両手を突っ込みます。

ぐい、と力任せに引っ張って、奇声を上げる口を裂きました。

真横に引っ張ったせいで、縦に裂けた顔を、そのままずるずると剥いで、

現れた頭蓋骨に笑顔を見せましょう。

喉を押さえて、頭蓋を押し上げます。

ずるっ、ずるっ。

片手ではバランスが取れないので、左手で肩を押さえます。

それで、脊髄までも抜き取れました。

「あはははっ」

今までで一番楽しいコロシカタでした。

だって、頭蓋から背骨、脊髄が引き抜けたのです。

すんなりと抜けたせいで、体はぐっちゃぐっちゃになりましたが、抜けた時の感触はステキです。

とりあえず、シンデしまったので、二つになってしまった青年を並べます。

こうすると、どちらが彼なのでしょうか。

悩んだ挙句、顔の皮を体の上に置いてみました。

「・・・あ、二人だ」

二人に増えました。

骨は面白くないので、犬さんが食べやすいよう、何本かを小さく千切ります。

頭蓋骨はイスに丁度いいので、お尻の下に敷きました。

「うー、スケベ」

やっぱり、恥ずかしいので止めます。えっちなことをされたので、頭蓋骨は脳味噌ごとシーソーの下敷きにしました。

残った骨はゴミ箱に捨てます。頑張れば燃えるので燃えるゴミです。

手足をそれぞれ切り取って、逆さまにしてみました。

旗みたいな感じがしたので、砂山に突き刺しておきましょう。

今日はちょっと寝不足で、眠くなりました。

どうしてか腕が一本余っていたので、枕にして眠ります。

おやすみなさい。

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寒さで目が覚めた。
眠ってしまったらしい。まだ五月の風は冷たいことがあり、寒がりの氷彩は布団からなかなか出られない。
だが、今日は布団が無い。
やけに硬い枕から体を起こすと、それが公園だと気付いた。

――――遠目に、奇怪なオブジェが映った。

「旗、みたい・・・?」
夢の台詞を繰り返し、砂場に立ったオブジェを見る。
もう、近付くまでも無かった。
夢。
夢が現実を浸食している。
だって、あれ、夢で私がしたことだ。
枕は腕で、旗は胴体。シーソーの下には頭蓋と脳味噌。
「っ・・・ぁ」
気分が悪い。悪い。悪い。
思わず、走り出した。
町の中をパジャマで疾走する。どうしてここにいるかなんかわからない。
夢遊病。柚葉さんは違うと言ったけど、あの人に私の苦しみなどわからない。

夢から逃げたい。
けれど、夢はどこまでも追ってきた。
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