Mirage

Angelic-4

「未来視(プレコグニション)。それとも、空間結合(コネクション)」
二人きりになった瞬間から、未知への会話が始まった。
矢上彩は吸い終えた煙草を外に放り投げ、ソファに腰を落ち着けた。
高校生二人の送還を君塚冬真に任せるよう指示し、彩を残した。浅川柚葉が彩と二人きりになる時、大抵はこの手の話になることを、冬真も知っている。
「事件は深夜に起きている。その時刻丁度に君塚氷彩が眠っており、なおかつレム睡眠下にあることは考え難い。しかも、五件全てを確実に目撃している。これは、後者だろう。夢という偶発性の高い方法に依存している能力ではなく、彼女自身が夢だと誤認している。魔眼や第三の目(サードアイ)に近いものがあるが、兄の境界能力から考えて魔眼使いではなくコネクターだろうな。魔眼持ちの視点と自身のレセプターを接続し、他者の視覚組織を介して第三者として傍観しているに過ぎない。しかし視点として第二者、即ち殺人者の視点を媒体としていることから、自身が殺人を犯していると錯覚してしまう。成程、これは悪夢だな」
君塚氷彩の夢は、人を殺す。具体的過ぎるまでに詳細に、夢を覚えており、吐瀉(トシャ)するほどの明確性を持っていると言う。
厄介なのは、夢で殺した人物が翌朝のニュースになるということだ。夢が一人歩きし、殺人を犯し、まるで「自分が殺している」という錯覚に陥る。
だが、実際に殺しているのは「夢」であり「自身」ではない。夢だけが先走っているという状態にある、と柚葉は定義した。
「すると、魔眼持ちが犯人か」
「いいや、そうとは言い切れない。魔眼持ちが俯瞰(フカン)している風景を見ているのかもしれない。実際に魔眼持ちが殺しているのかもしれない。どちらかを断定することは難しいが、これだけは決定的だ。魔眼持ちというのはね、滅多なことじゃ生まれない。後天的に見につくものじゃない。先天的に網膜に異変を生じた人間でなければ、その才能は生かせない。わたしが知る限りでは、魔眼持ちなど二人しかいない。そのうちの一人が、お前さんだよ」
右手を上げ、細い目で柚葉は魔眼持ちを指差した。
「ただ可能性として、実際の殺人者の視点を利用したのか、魔眼持ちの視点を利用したのか。後者の方が可能性が高く、殺人なんて物珍しい行為に身を染めるなら、前者に属する。まぁ、君塚氷彩が見たモノは、お前さんの視点だとわたしは思うけどね」
「同感だ」
自分が殺人者だ、と彩は頷いた。その仕草に、まったくだ、なんて頷く柚葉を、彩は無表情のまま、見つめた。
「氷彩は冬真の家に厄介になるだろうな。わたしで保護しようかとも思ったが、この忙しい時にそんな面倒事を自ら買って出る気にはなれなかった。問題なのは、望月崇行だ」
「殺す?」
「いやいや、まだ時期ではないな。それに、彼自身には問題はない。彼の背景が歪んでいるだけだ。氷彩はどうかな。助かるか?」
色の無い目で、彩は言う。親友の妹、一度きりだが、会ってしまった接続者に告げるように。

「――――残りは三人。四人目になるかどうかは、冬真次第」

鈴の音が響く。
気高く、凛とした響きは、綺麗で、恐怖。
彼女は生前の名残そのままに、色の無い瞳で、殺すと呟いた。


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(天使再臨/3)


ナイフが奔(ハシ)る。閃光のような一撃は、事実、極光だった。
真昼を切り裂く極光の刃。天使の輪と称された斬撃。
午前中だと言うのに、そこには人通りが無かった。人気の死んだ場所。運悪く足を踏み入れたのは、若い女子高生だった。
皮肉なことに。殺人者と同じ、女子高生だった。
「え?」
前方に立っているのに関わらず、奇襲めいた一撃だった。彼女は視認することも、逃避することも許されず、一振りで喉を切り裂かれた。
続き、漏れる血の泡を浴びながら、心臓を二刺し。抵抗か反動か、不運なことに女性の右手が上がって、そして飛んだ。
計四ヶ所。連続猟奇殺人六件目としては、傷は少なかった。
苦しみは一瞬。喉を捌かれたことで声が出なかった瞬間のみ。心臓を一秒で二回刺され、おまけで右腕を刎ねられた女子高生は、倒れる頃には絶命していた。

ゆらり、と。着物が揺れた。返り血は無く、殺人者は消えた。

白昼、見えない月に隠れるように、暗殺者は姿を消した。

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